『恋のいばら』SNS時代の男女関係をあるある感満載で描いたちょっぴりシリアスなライトコメディ

『恋のいばら』SNS時代の男女関係をあるある感満載で描いたちょっぴりシリアスなライトコメディ

2023-01-06 15:41:00

『恋のいばら』は城定秀夫監督がプロデューサーから香港映画『ビヨンド・アワ・ケン』(2004年・パン・ホーチョン監督)のリメイク企画として依頼されて制作された映画。

城定監督はオリジナルを見た感想は、「いい意味で、 ウォン・カーウァイ監督の映画より野暮ったくて観やすい」と。カレシ(渡邊圭祐)を巡る今カノ(玉城ティナ)と元カノ(松本穂香)の微妙な三角関係の物語。関係はいつしか長い二等辺三角形となり、頂点に位置するカレシは二人の彼女から突き上げられることになるのだが。女性の脚本家と仕事をしたいという監督の希望で脚本は『愛がなんだ』の澤井香織を起用。

2004年の香港から舞台は今の東京を舞台にリメイクされた、SNS時代の男女関係をあるある感満載で描いたちょっぴりシリアスなライトコメディ。

 

城定秀夫監督インタビュー

――どのような経緯で、城定監督に監督依頼が来たのですか?

2020年の夏、村田プロデューサーから突然「今こういうリメイク企画があるから、オリジナル版を観てほしい!」と連絡があったんです。知る人ぞ知る作品だし、2004年の作品ということもあり、正直「なぜ、このタイミングでリメイクするのかな?」とは思いましたが、そこはあまり考えず、挑戦してみようと思いました。

――オリジナルである『ビヨンド・アワ・ケン』を観たときの感想は?

実はこの作品の存在を知りませんでしたが、実際観てみると、とてもウェルメイドな作品だし、プログラムピクチャーとしての要素もあったりして、どこか自分に似た感覚がある作品だなぁと思いました。いい意味で、ウォン・カーウァイ監督の映画より野暮ったくて観やすい(笑)。ただ、僕自身、リメイクすることが初めてなので、オリジナルに引っ張られないよう、そのとき一回しか観ていませんね。

――澤井香織さんとの脚本づくりについては?

僕の中では女性の脚本家さんにお任せしたい気持ちがあって、村田プロデューサーの方から『愛がなんだ』で組まれていた澤井さんの名前が挙がりました。僕は『愛がなんだ』が大好きなので、ご一緒できて光栄でした。澤井さんが最初に書かれた脚本は、オリジナルに近い感じだったのですが、できるだけ大胆に日本版アレンジしたいと意向もあって、僕も入っていく感じになりました。

――オリジナルに比べて、シスターフッド映画の要素が強まっている件に関しては?

自分でもシスターフッド映画にしたいという意識はありましたが、ジェンダー問題に切り込むとか、そこまで社会派にするつもりはありませんでした。できるだけオリジナルと同じように、女の怖さや男のダメさを笑いながら観ることができるエンターテイメントな映画にしたいという気持ちはありました。あとは、ウディ・アレンの映画や『黑い十人の女』あたりは意識しました。

――撮影エピソードを教えてください。

クランクインは2022年1月18日。主な撮影場所は関東近郊で、メインとなる健太朗の家は、若葉台にある実際の家屋を使用しました。映画館でのシーンは外観も客席も、東京の上映館でもあるシネクイントですが、営業が終わった深夜からの撮影でしたね。撮影も照明も組んだことのあるスタッフでしたし。撮影の渡邊雅紀さんは『愛なのに』でも組んでいたんですが、あっちはよりインディーズ色の強いアート系作品だったので、今回はエンタメ色強くて、お客さんが観やすい画をお願いしました。

――いちばん苦労されたシーンは?

クランクアップの2月4日まで、撮影日数もありましたし、天候にも恵まれ、全体的にストレスがなく、いつになく楽な現場だったような気もします。いちばん大変だったのは、クライマックスの健太朗の部屋のシーンですかね。そんなに広くない部屋で、健太朗のキャラを画で表現しなければいけないですし、画替わりしない感じをどう持たせるか、ということは課題でしたね。見えないところまで、美術さんも頑張ってくれました。

――ポストプロダクションについて。

編集は編集マンの方にお願いしたところ、90分ぐらいまで切られていたので、余韻を残したかったので、あえてちょっと足しました。オリジナルはラテンミュージックだった音楽に関しては、ゲイリー芦屋さんにお願いし、密にやりとりして作っていったのですが、かなりイイ感じになったと思います。主題歌はchilldspotに依頼。台本を読んだうえで、「gethigh」を書下ろしてもらいました。

――タイトルについて。

2人のヒロインは王子様のキスを待っているだけの、いわゆる「眠れぬ森の美女」ではなく、そんなステレオタイプの女性の殻を抜け出そうとしていること。そんな彼女たちに訪れる“いばら”。しかも、単純な恋愛映画でもないし、友情物語でもないというもあって、いろいろと想像することができるタイトルに決まりました。

――『恋のいばら』は城定監督にとって、どんな一本になったと思いますか?

あえて新たな挑戦をしたとか、作家性を打ち出してやろうといった意識はないですが、これまでの自分が撮った作品のテイストが入っていながら、今まで撮ったことのない雰囲気の作品になったと思います。日本ではほとんど知られていない作品をリメイクするという意味では、学生演劇を映画化した『アルプススタンドのはしの方』にも近い感覚だったり、難しさだったかなと思いますね。

(取材・文/くれい響)

監督プロフィール

1975年⽣まれ、東京都出⾝。武蔵野美術⼤学在学中から8mm映画を制作。同校卒業後、フリーの助監督として成⼈映画、Vシネマなどを中⼼にキャリアを積む。2003年に映画『味⾒したい⼈妻たち (押⼊れ)』で監督デビューし、ピンク⼤賞新⼈監督賞を受賞。その後Vシネマ、ピンク映画、劇場⽤映画など100タイトルを超える作品を監督。2016、2017、2018、2019年、4年連続で<ピンク⼤賞>において「作品賞」を受賞。2020年公開の映画『アルプススタンドのはし⽅』がミニシアター系では異例の⼤ヒットを記録。初⽇満⾜度1位 (Filmarks調べ)、TAMA映画祭特別賞、「キネマ旬報」ベスト・テン第10位、「映画芸術」ベストテン第3位、など数々の映画賞を獲得した同作では、ヨコハマ映画祭、⽇本映画プロフェッショナル⼤賞で監督賞を受賞。2022年には『愛なのに』、『⼥⼦⾼⽣に殺されたい』、『ビリーバーズ』、『よだかの⽚想い』、『夜、⿃たちが啼く』(12⽉9⽇公開予定)ほか、公開待機作品や撮影中の作品などを含め多数の作品を⼿掛けている。

 

ストーリー

24歳の桃(松本穂香)は、最近、健太朗(渡邊圭祐)にフラれ、関係が終わったばかり。健太朗のインスタを見ていると、どうやら新しい恋人ができたらしい。桃は、そこから今カノ・莉子(玉城ティナ)のインスタを発見。インスタを頼りに莉子を特定し、直接会いに行ってしまう。そして莉子と対峙した桃は、ある“秘密の共犯”を持ちかける。

「リベンジポルノって知っていますか?」 
「健太朗のパソコンに保存されている自分の写真を消して欲しい」と。

最初は相手にしない莉子だったが、徐々に自分も被害に合うかもしれないと、不安を覚え始める。
そして・・・。
図書館で勤務していて、地味な桃。ダンサーで、桃と同い年ながら、桃とは対照的にイマドキの洗練された莉子。カメラマンで、無邪気にすぐ女性に手を出す健太朗。ふたりの女とひとりの男の甘くて危険な三角関係が始まる――。

 

予告編

 

公式サイト

1月6日(金) アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督:城定秀夫 
脚本:澤井香織、城定秀夫
音楽:ゲイリー芦屋
主題歌:chilldspot 「get high」(ポニーキャニオン) 
出演:松本穂香、玉城ティナ、渡邊圭祐、中島歩、北向珠夕、吉田ウーロン太、吉岡睦雄、不破万作、阪田マサノブ、片岡礼子、白川和子

2023年/98分/カラー/シネマスコープ/5.1ch

企画・製作プロダクション:アンリコ
製作幹事・配給:パルコ  宣伝:FINOR

©2023「恋のいばら」製作委員会