『離ればなれになっても』ひとりの女を愛した3人の男たち。40年間の切ない追憶の日々を描いた極上のヒューマンラブストーリー

『離ればなれになっても』ひとりの女を愛した3人の男たち。40年間の切ない追憶の日々を描いた極上のヒューマンラブストーリー

2022-12-26 10:00:00

ほろ苦くも切ない追憶の日々から現在までの40年という長い歳月を描いたイタリアらしい壮大なラブストーリー。いや、ラブストーリーというよりはむしろ、人生賛歌の物語と呼ぶべき大作である。

ひとりの女を愛した3人の男たち。迷える4人の旅路は、愛、友情、喜び、悲しみ、裏切り、怒り、憎しみ、許し……おおよそ人生において味わうあらゆる感情を次々に喚起させ、私たちの心に揺さぶりをかけてくる。胸をギュッと掴まれるような切なくも魅惑的な、恋愛におけるあの感覚が、その追憶の日々が、ローマとナポリの美しい街並みと郷愁を誘う旋律を伴って鮮やかに綴られてゆく。

監督を務めるのは、『幸せのちから』(06)、『パパが遺した物語』(15)などで知られ、イタリアとハリウッドを行き来しながら制作活動を行う、ガブリエレ・ムッチーノ。魅力的な主人公の女性ジェンマには、ミカエラ・ラマツォッティ。弁護士のジュリオには、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。教師のパオロには、キム・ロッシ・スチュアート。映画界を目指すリッカルドには、クラウディオ・サンタマリア。

この作品について監督は、「エットーレ・スコラ監督の『あんなに愛しあったのに』や、ディーノ・リージ監督の『困難な人生』のようなイタリア喜劇の典型的な作品に、自由にインスパイアされた映画を作ろうと考えた」と語る。また、これらのイタリア喜劇の傑作群にオマージュを捧げながらも、自分たちの世代に向き合い、 “自分の生きてきたイタリアの40年の歴史を網羅した作品”を制作しようと決意したという。「作るのが怖い映画だったので、取り組むのに時間がかかりました」とも語っている。

長いスパンでそれぞれの運命のみちゆきが見応えたっぷりに描かれていながら、決して冗漫さを感じさせず、時代を俯瞰する手腕が随所に光る本作。おそらく遠からず、ヒューマンドラマの系譜に刻まれる新たな傑作の一つとなっていくだろう。

 

ストーリー

1982年ローマ、16歳のジェンマは同級生のパオロと恋におちる。彼の親友のジュリオとリッカルドと共に、弾けるような青春の時を過ごしていた。ところが突然、母親を亡くしたジェンマは、ナポリの伯母の家に引き取られる。

1989年、教師、俳優、弁護士と、社会への一歩を踏み出した3人の男たちは、別人のように変わってしまったジェンマと再会する──。

 

 

ガブリエレ・ムッチーノ監督インタビュー


――ストーリーについて

本作は、少年たちが少しずつ大人になり、親になっていく姿を描いた40年間のストーリーです。英雄物語のように、大きなストーリーを小さなエピソードが縁取っています。この場合は、4人の群像劇ですが、イタリア人の歴史、いやイタリアの歴史を語っていると言ってもいいでしょう。

いつの時代も変化を求めるものだから、そんなテーマを扱った映画は珍しくありません。1982年から2020年までの約40年間で驚くべきほどのことが変わりました。ベルリンの壁崩壊から、マーニ・プリーテ(※)、アメリカ同時多発テロ、そして今も、イタリア国内では新たに大きな運動が生まれています。この映画の主人公の1人リカルドも、その政治運動の一員になっています。

4人が成長し、人生の節目を迎え、その過去を振り返る過程を捉えています。青春時代に信じてやまなかった確信や、裏切り、失望、挫折。人生はそう甘くはないという強く厳しい教えを痛感しながらも明日を生きていくんです。クラウディオ・バリオーニの歌は、過去50年間のすべてのイタリア人の象徴です。もし恋に落ちたら、バリオーニを歌おうという、大衆文化へのオマージュでもあります。

※マーニ・ブリーテ:1990年代初頭にイタリアで実施された検察による汚職捜査。

――キャストについて

キャスティングは最高だった。4人の俳優の中で言うと、ピエルフランチェスコ・ファビーノとクラウディオ・サンタマリアとは映画を一緒に撮ったことがあった。相性がとても良い2人に加え、キム・ロッシ・スチュアートとミカエラ・ラマツォッティと初めて仕事をしました。少年少女時代を演じる俳優たちが、成人した俳優にこれほどまで似ているなんてね。全く信じられないくらい幸運でした。

映画はミカエラを中心に描かれています。ジェンマは「宝石」という意味を持ち、親友同士の3人が彼女に恋心を寄せていて、好かれたいと思っている。

一緒に仕事をした俳優たちは、僕と同年代なので、皆が僕の描きたいローマのイメージを知っていたし、それぞれが経験を積み、勝ち負けを考えたり、果たして自分の人生はこれで良かったのか、過去を振り返る年齢になっています。

――演出について

この作品では、撮影の数週間前から何度もリハーサルを行い、台詞を練り直した。各シーンのリズムを理解してもらい、彼らの間でうまれる化学反応をみたかったんです。

俳優には、オーケストラのように、撮影現場でテンポを与えてくれる指揮者が必ず必要です。時間をかけて、何を改善しどうすればよいかを話し合う。私の役目はタクトを振ることです。危機感を与えた方がいい俳優もいれば、安心させることが必要な俳優もいる。最も重要なことは、すべては目の前にいる役者次第でもあり、私のコントロールから彼らを解放させ、予想外の力を発揮させることです。

――4人の登場人物に監督が託したメッセージ

それぞれの中に、私がたくさんいます。ピエルフランチェスコ・ファヴィーノが演じるジュリオは、少年時代は貧困の中で育ちながらも著名な弁護士になる。キム・ロッシ・スチュアートが演じるパオロは、臨時教員として働く平和主義者。クラウディオ・サンタマリアが演じるリッカルドは映画評論家を志しながらも叶わず、無一文の夢想家の人生を送る。(リッカルドは)政治を追いかけ自分の信念を肯定するには正直であれば十分だと考える、私たちの“失われた世代”を象徴している。抑圧された意見を表明しようとデモに参加する世代です。

ミカエラ演じるジェンマは、愛情をずっと欲しがっている。ずっと好きだった男のもとに戻るのは、彼が自分の帰るべき家を象徴しているから。人間には欠点が多いから人生の壁にぶつかっていくアンチヒーローたちを描くのは面白かった。

――新たな挑戦、過去のフィルモグラフィとの違い

私の世代は、戦後からの復興と好景気、1968年の改革を経験している。言わば光にあたって生きてきた前の時代の人たちに対して劣等感を抱いている。私たちは非政治的な世代であり、様々なイデオロギーと、現実には活用できなかった政治的知識によって混乱しています。

この映画は私がこれまでに撮ってきた映画とは異なるジャンルだと思います。何故ならこの映画は、主人公達の内面の葛藤だけではなく、時間の経過が根底にあるから。時間と共に、彼らは誕生し内面が形成され、変化していく。己のコントロールが効かなくなってしまうところまでね。生きた時間、時代は登場人物を形作り、運命を作り、予期せぬ状況を提示し、選択を迫ります。困難な状況に陥った時こそ、私たちは別の扉を開くのではなく、一つの真実の扉を開く機会を得ることができるんです。


ガブリエレ・ムッチーノ
Gabriele Muccino
監督・脚本

1967年5月20日、イタリア・ローマ出身。 ボランティアで監督助手を務めたことから映画製作に興味を持ち、Rome's Experimental Cinematography Instituteで演出と脚本を学ぶ。長編監督デビュー作の『Ecco Fatto(原題)』(98)で、イタリア版アカデミー賞であるダヴィッド・ ディ・ドナテッロ賞やイタリア映画批評家協会賞の新人賞にノミネート、トリノ国際映画祭(新人映画)の最優秀作品賞を受賞。続く『Come Te Nessuno Ma(原題)』(99)でもブリュッセル国際映画祭、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭など数々の映画祭で受賞。01年の『最後のキス』(未)でダヴィッド・ディ・ドナテッロ 賞の監督賞と脚本賞、サンダンス映画祭の観客賞を受賞し、国際的な注目を集める。続いてモニカ・ベルッチ主演の『リメンバー・ミー』(03)でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の作品賞、監督賞、脚本賞を受賞。ウィル・スミスと実の息子のジェイデン・クリストファー・サイア・スミスの共演で話題を呼んだ『幸せのちから』(06)でハリウッドに進出。その他、『7つの贈り物』(08)、『最後のキス』の続編『もう一度キスを』(10)、『スマイル、アゲイン』(13)、『パパが遺した物語』(15)、本国イタリアで大ヒットした『家族にサルーテ!イスキア島は大騒動』(18)などがある。

 

『離ればなれになっても』予告編

 

公式サイト

 

2022年12月30日(金) TOHOシネマズ、シャンテ、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

STAFF
監督・脚本 ガブリエレ・ムッチーノ「幸せのちから」「パパが遺した物語」
脚本 パオロ・コステッラ「おとなの事情」
撮影監督 エロワ・モリ「ホステル ネクストレベル」
編集 クラウディオ・ディ・マウロ「ワン・モア・ライフ!」
音楽(オリジナルソング) ニコラ・ピオヴァーニ「ライフ・イズ・ビューティフル」
衣装 パトリツィア・チェリコーニ「イントゥ・ザ・ラビリンス」
美術監督 トニーノ・ゼラ「歓びのトスカーナ」
サウンド・エンジニア マリオ・イアコーネ
プロデューサー マルコ・ベラルディ「歓びのトスカーナ」

CAST
ピエルフランチェスコ・ファビーノ「ラッシュ」(ギュリオ役)
ミカエラ・ラマツォッティ(ジェンマ役)
キム・ロッシ・スチュアート(パオラ役)
クラウディオ・サンタマリア「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」(リカルド役)

原題:Gli anni più belli /2020/イタリア/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/135分

字幕翻訳:岡本太郎
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館 提供:クラシコム
配給:ギャガGAGA★

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