『チーム・ジンバブエのソムリエたち』品種、生産国、生産者、収穫年を特定するテイスティング大会に挑むジンバブエ人チームの挑戦

『チーム・ジンバブエのソムリエたち』品種、生産国、生産者、収穫年を特定するテイスティング大会に挑むジンバブエ人チームの挑戦

2022-12-16 11:11:00

この秋から冬にかけてアップリンク吉祥寺・京都では3本のワイン映画が公開された。『チーム・ジンバブエのソムリエたち』が4本目のワイン映画だ。

4作の中では、特にワイン以外にフォーカスを最も当てた映画だ。主役はフランスのブルゴーニュ地方で毎年開催される「世界ブラインドワイン・テイスティング選手権」に参加するジンバブエのチームだ。ジンバブエのチームと言っても彼らが現在住んで働いているのは南アフリカだ。

2008年には、100兆ジンバブエドル札が発行されるというデノミネーションが行われ、政治、経済が混迷する国家から逃げ出したジンバブエ人の多くを受け入れたのが南アフリカだった。

映画は、2017年の選手権をジンバブエチームと共に追いかける。ワインといえばどちらかといえばカジュアルというよりフランス料理と共に提供される飲み物で、白人が中心の世界だが、大会にはアフリカからジンバブエチームが初参加し、映画では中国チームの姿も窺える。

大会のルールは、赤白のワイン12本のテイスティングを行い、品種、生産国、生産者、収穫年を特定する競技だ。ちなみに2022年10月に行われた選手権では優勝がベルギーで日本は25位だった。

大会の結果は見てのお楽しみとして、4人の選手のその後も映画のエンディングで描かれている。アフリカワインの販売をオランダではじめたり、南アフリカで葡萄の栽培を始めワイン作りに挑戦する彼らの姿を見ると、映画を観た後につい南アフリカ産ワインを飲みたくなってしまう。

 

ワーウィック・ロス、ロバート・コー監督インタビュー


(ワーウィック・ロス監督)


(写真右:ロバート・コー監督)

──ジンバブエ・チームの存在を知ったのは、いつ、どんなタイミングでしたか?また彼らで映画を作ってみようと思ったのは、何が決め手だったのでしょうか。

ロス:『世界一美しいボルドーの秘密』にも登場した、世界で最も影響力のあるワイン・ジャーナリストのジャンシス・ロビンソンから連絡をもらったんです。ジンバブエ出身のソムリエたちがいる、と。彼らは非常に魅力的で、将来性のある若者たちだ、と。私たちはすぐに彼らが活躍している南アフリカに飛びました。彼らに会い、すぐに撮影を決めましたね。それほどまでに彼らは魅力的だった。もちろんそこから資金集めなど紆余曲折はありましたが。

──お二人は『世界一美しいボルドーの秘密』で、世界のワインの中心地ボルドーを舞台に選びましたが、今回はワインの世界ではニューワールドと呼ばれる南アフリカが舞台です。偶然ですか?それとも数年の間にワインの流行の変化を感じられたのでしょうか?

ロス:ワイン界ではいま大きなシフトが起きています。伝統的なワインが作られてきたところから、ニュ―ワールドへ。南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどなど。クオリティは高いけどリーズナブル、ボルドーの半額以下で美味しいワインを入手できることが多くのワインファンにも知れ渡ってきました。ワイン業界は長い間伝統に縛られてきました。新しいメソッドをためしてみる、というような流れがここ20~30年勢いを増しています。ニューワールドの作り手たちが、オールドワールドに行き知識を共有しているというような面白い現象もおきています。私たちが教わるだけでなく、私たちがお返しするというような逆転現象が起きているんです。お互いが切磋琢磨している感じがとてもわくわくします。そのようなことで今回はニューワールドでの撮影に臨みました。

──フランス人コーチ、ドゥニ・ガレのコミカルでありながら人生の悲哀も感じさせ、良い意味で映画のエンタメ度を上げていると思いました。彼にコーチが決まった時、監督たちは実は喜んだのではないですか?

コー:僕らは4人のソムリエについて天からの贈り物だと思いました。存在そのものに希望があり、未来への道を感じる。でもストーリーテラーの僕たちとしては、もうひとつ何か要素がほしい。そう思ったときに登場したのがドゥニでした。コミカルな側面がありつつも、抱える葛藤、どこかその日暮らしというようなボヘミアンのような感じ、あまりにも魅力的だったので、途中で彼を追うのを自制したほどでした(笑)。一方で、離婚など悲劇的な過去も持つけれど、8歳の息子の面倒もしっかりみているという、彼の真摯さも感じました。家族と過ごしている彼の姿はとても美しい。そうしたところにはとても心を動かされました。ただカメラがあったことによって、彼は、自分がな何かしなきゃと思ったはずです。それはカメラ越しに感じました。

──本作の日本での評判のひとつに『クール・ランニング』のようだ、という感想があります。どこか意識されたことなどはありますか?

ロス:はじめはまったく意識してなかったのですが、制作途中にある人に「テーマが似てる」と言われて、それ以降は少し意識しました。けれど私たちの映画の方がより深い内容だと思っています。4人の若者が踏み込んだとのない世界にチャレンジして、予測できないことを成し遂げる、という点など、構造的には似ていると思いますが、本作では難民がおかれている状況や、多様性、包括性、決然たる思い、勇気、チャレンジ精神、が大きなテーマです。それらのテーマにより、本作は深いストーリーになっている。どちらも、未経験者がチャレンジし、ある成功を手に入れ、予想もない結末をむかえる、という点では同じだと思いますが、本作はより深き響くものがあると信じています。

──ワインをテーマにしたドキュメンタリーを今回含めて2本制作されてますが、ワインをテーマにしての映画制作の魅力はどんなところなのでしょうか?

ロス:まず私がワイン好きだということです!そして私自身がワインの生産者でもあります。ワインの世界は居心地がいいし、ワイン業界の人々の気持ちが理解できる。そして目をこらすと、そこには実に多種多様な物語があります。実はもう一本ワインについての映画を作りたいと思っているほどです。前作の『世界一美しいボルドーの秘密』は地政学的なアプローチ、今作は多様性という側面からワインの世界を撮りました。ただのワインのお勉強的な映画よりも、私にとって重要なのはストーリーの強さ、物語を動かしていくものが重要です。

コー:前作は経済や、人間の強欲さをテーマにしました。だから純然たるワインの映画とは思っていません。今回はどこかに属すること、ルーツについて、故郷についてがテーマになってます。映画制作は時間がかかるから、よっぽどの覚悟と情熱を感じないと制作には入れない。何かを越えるようなストーリーが必要なんです。たとえワインのワの字も知らなくても、多くの人にストーリーとして響くものを撮っていきたいですね。

──お二人はどんな映画に触れてきたのでしょうか?また敬愛する映画監督はどなたですか?

ロス:世界には多くの名匠がいるけど黒澤明監督を敬愛しています。特に『羅生門』が好きですね。約30年前に東京国際映画祭で黒澤監督にお目にかかったことがあります。その出来事は私にとっては宝です。ほかにはフランシス・フォード・コッポラやマーティン・スコセッシ監督などを敬愛しています。こういう話は、一日中話していられる(笑)。

コー:ドキュメンタリー作品が特に好きですね。デビッド・モーガン、エロール・モリス監督らの作品が好きです。特にモリス監督の『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元国防長官の告白』が好きです。ほかにはヴェルナー・ヘルツォーク、ヴィム・ベンダース監督作品が好きです。ヘルツオォーク作品はドキュメンタリーとフィクションの狭間を描いている点が、唯一無二で素晴らしいと思います。僕の夢は彼のような映画を作ることです。日本映画では、是枝監督の『万引き家族』は素晴らしいと思います。素晴らしい映画がたくさん制作されている時代に、自分も映画制作できていることの幸せをかみしめています。

──次回作について教えてください。

コー:僕たちはチームでロス監督と彼の娘(マドレーヌ・ロス、コー監督の私生活でのパートナーでもある)3人で脚本を書いています。フィクションもドキュメンタリーもこれからは制作していきたいと思ってますが、現在のプロジェクトとしてはオーストラリアを舞台にしたコメディドラマ、モータースポーツを題材にしたドキュメンタリー、ほかにも心理スリラーや1930年を舞台にした歴史ものの企画もあります。でもまずはこの映画どんな風に日本やほかの国で受け入れられるのかに興味があります。

──大きな挫折を味わったとしても人生は何度でもやり直せるという応援歌にも受け取れる作品です。コロナ禍以降、世界が元気を失っている状況ですが、日本の観客にメッセージをお願いできれば幸いです。

コー:4人の姿から、何があっても最後まであきらめない、挫折しても再び立ち上がる姿を感じ取ってもらえたらうれしいです。彼らは不可能と思える困難に立ち向かい、強固な決心とやる気で困難を乗り越えた。同時にどんな困難あっても楽観主義的で希望を失うことも、ユーモアを失うことも、人生に失望することもなかった。その姿を見て、やり通す力を感じてくれたら素晴らしいですね。一方で恵まれた環境にいる人は、ジャンシス・ロビンソンのように困難に陥っている人たちを支えてくれたらと思います。

ロス:コロナなど辛い状況が続く中においても、心が軽くなり、元気になる映画です。この映画には希望あり、自然に笑顔になる要素にあふれている。それを感じにぜひ映画館に足を運んでください!

ワーウィック・ロス監督プロフィール

1955年香港生まれ。1965年にオーストラリアに移住。メルボルン大学卒業後、南カリフォルニア大学映画芸術学部に進学。『青い珊瑚礁』(1980)のアシスタントとしてキャリアをスタート。『ロードゲーム』(1981)や『キャプテン・ザ・ヒーロー/悪人は許さない』(1983)などオーストラリア映画に携わる。プロデューサーとして参加した『ヤング・アインシュタイン』(1988)が大ヒット、ワーナー・ブラザーズがオーストラリアで公開した映画の中で最も成功した作品となり、フランス、ドイツ、イギリスでは興行収入1位を記録した。プロデューサー、監督、脚本を担当し、ナレーションをラッセル・クロウが務めた長編ドキュメンタリー映画『世界一美しいボルドーの秘密』(2013)はベルリン映画祭で初公開されトライベッカ映画祭にも出品、オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞と監督賞を受賞したほか、オーストラリア作家協会賞も受賞している。パートナーであるロバート・コーと制作会社third man filmsを設立、本作の製作・監督を務めた。

ロバート・コー監督プロフィール

シドニーを拠点に活動するプロデューサーで脚本家、監督。『世界一美しいボルドーの秘密』(2013)にエグゼクティブ・プロデューサーとして参加。ギャレット・ディラハントとアンジェリ・バヤニが主演した『Beast』(2015)、『ハッピーエンドの選び方』(2014)などをプロデュースしている。パートナーであるワーウィック・ロスと制作会社third man filmsを設立し、本作の製作・監督を務めた。

 

ストーリー

“ワイン真空地帯”のジンバブエ共和国から、4人のソムリエが「世界ブラインドワインテイスティング選手権」に初参戦する珍事が起きた。ジンバブエから南アフリカに逃れた難民かつ黒人の“チーム・ジンバブエ”を迎え撃つのは、“神の舌を持つ”23カ国の一流ソムリエたち。先進国の白人が多数を占めるスノッブな世界に、故郷ジンバブエの威信をかけて乗り込んだジョゼフ、ティナシェ、パードン、マールヴィン。クラウドファンディ ングの支援を受けてワインの聖地フランスのブルゴーニュにたどり着いたものの、限られた経費で雇ったコーチは久し振りの晴れ舞台で大暴走。浮き足立つ“チーム・ジンバブエ”の波乱に満ちたスリリングなワインバトルの結末はいかに!?

 

予告編

 

公式サイト

12月16日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク京都ほか全国順次公開
12月23日(金)よりアップリンク吉祥寺にて公開

監督:ワーウィック・ロス、ロバート・コー
脚本:ワーウィック・ロス、ロバート・コー、ポール・マーフィ、マドレーヌ・ロス
撮影:スコット・ムンロ、マーティン・マクグラス
編集:ポール・マーフィ
音楽:ヘレナ・チャイカ
サウンドデザイン:リアム・イーガン

2021年/オーストラリア/英語・ショナ語・フランス語/96分/ビスタ/5.1ch/原題:Blind Ambition

日本語字幕:横井和子
後援:ジンバブエ共和国大使館、一般社団法人日本ソムリエ協会
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム

© 2020 Third Man Films Pty Ltd

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