『トゥモロー・モーニング』世界最高峰のミュージカル・スターが圧倒的な歌唱力や美しいメロディで力強く語るミュージカル映画
2006年にロンドンで初演が行われたミュージカル『トゥモロー・モーニング』。4人の演者が一組のカップルの20代と30代をそれぞれ演じ、2つの時間軸が舞台上で同時に展開されていくというユニークな設定のこの作品は、ポルトガル・韓国・ドイツ・オーストリア・イタリア・オーストラリアの6か国で上演され注目を浴びた。ロンドンの初演から15周年を記念した2021年に再演が計画されていたものの、コロナ禍に突入したことで中止を余儀なくされた。『トゥモロー・モーニング』の映画化のプロジェクトはそこで動き出したのだ。
監督を務めたのは初演でも演出を担当したニック・ウィンストン。主演にはサマンサ・バークスとラミン・カリムルーという世界最高峰のミュージカル・スター2人を迎えている。サマンサ・バークスは映画・舞台版『レ・ミゼラブル』やウエストエンド版の『アナと雪の女王』でエルサ役など、有名ミュージカルのヒロイン役を多数演じている。ラミン・カリムルーも『オペラ座の怪人』で史上最年少のファントム役に抜擢され、『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャン役でブロードウェイ・デビューを果たすなど、まさにミュージカル界のトップスターたちの夢の共演と言っていいだろう。
ロンドンで暮らす2人の男女の“結婚前夜”と“離婚前夜”の2つの時間を行き来するようにみせていく本作。離婚を目前にした彼らは、結婚直前の時間に思いを馳せていく。
交わした約束や抱いていた感情は本当に消えてしまったのか。夫婦の愛の結晶とも言える子どもの存在も、物語において重要な役割を果たしている。過去を思うことで、現在から何が浮かび上がってくるのか。圧倒的な歌唱力や美しいメロディによって力強く語られていく本作は、大きなスクリーンで観るのに打ってつけのドラマティックなミュージカル・エンターテインメントである。
ニック・ウィンストン監督インタビュー
──オリジナルの初演も演出していますが、舞台から映画にする上で意識したのはどんなことでしたか?
舞台はひとつのセット、たった4人のキャストでふたりの人物しか登場しなかったし、いろいろな制限があった。でも映画ではセリフの中だけにしか出てこなかったキャラクターをいろいろと登場させ、会話をさせることによってストーリー自体を拡大し、深くしていくことができると思った。大好きな映画『クレイマー、クレイマー』みたいにね。ふたりの感情のキーとなる息子、ザックを実際に出せたことは大きな利点だった。舞台には主人公がただ自分の心情を吐露するだけ、というところがあったので、映画のほうが個人的にはよくできていると思っているんだ。それにアップで映すことで、キャラクターの心情がよりよくわかるし。ダンスシーンもあるしね。
──この映画はミュージカルですが、あまりダンスシーンは多くありません。あなたは振付家でもあるからもっとダンスが見られるかと思いましたが、なぜ?
そうだね、ダンスシーンはサルサ・バーのシーンと最後の結婚式だけ。なぜなら、映画に説得力がなくなってしまうと思ったから。たとえば『クレイマー、クレイマー』でダスティン・ホフマンが踊りだしたら、おかしいと思うよね? この物語でも、ふたりが踊ったら観客の意識がストーリーから離れてしまうと思ったんだ。それと、コロナ問題がある。“同じ部屋で密にならない”というガイドラインがあったので、振付を最初にメールで送って覚えてもらい、撮影当日に初めて合わせるというやり方しかできなかった。もしコロナじゃなかったら、もしかしたらもっとダンスシーンを入れられたかもしれない。
──舞台の演出と比べて、映画の監督という経験はいかがでしたか?
舞台では最初に俳優たちと稽古をして、最後にテクニカル・リハーサルをやって、最終的に照明やサウンドを合わせ、いろんな部署と連携をとって開幕の日を迎えるんだけど、今回の映画はテクリハを5週間やっているような感じだった。最も苦労したのはオープニングシーン。20のロケーションでふたつの時間軸を行き来し、すべてのシーンとつながり、作品全体のダイジェストのようなシーンだから難しくて。全5週間の撮影期間のうち、4週間はこのシーンを撮っていたと思う。映画でも、クリエイティブな部分は舞台と変わらない。でも舞台にはなくてエキサイティングだったのはカメラの存在だ。私は振付家なので、どういうアングルでカメラをセッティングし、俳優にどう動いてもらって撮ればいいかはすべて頭の中に入っていた。実は映画監督は、この世界に入る前からずっと私の夢だったんだよ。『クレイマー、クレイマー』以上に大好きな映画は『E.T.』で、スピルバーグ監督の大ファンなんだ! 本当は舞台の世界から映画に移行していきたいと思っていたんだけど、映画をやるには舞台の仕事を長期間ストップしなければならないと知り、断念した。だから今回、長年の夢を叶えることができて、毎日楽しかったよ。
監督プロフィール
イギリス・ノーサンプトン生まれ。4歳でダンスを始め、ロンドンのバレエ団在籍時にはボストン・バレエ団にスカウトされ、ロンドン・コロシアムで上演した『ドン・キホーテ』でルドルフ・ヌレエフと共演した経験もある。その後アンドリュー・ロイド=ウェバーの『キャッツ』、ディズニーの『美女と野獣』、伝説の振付家ボブ・フォッシー作品のダンス・レヴュー『フォッシー』といった多くの作品にパフォーマーとして参加したのちクリエイターに転身。ミュージカルとオペラの演出・振付家として世界各国で評価されている。イアン・マッケラン、ヘレン・ミレン、ベネディクト・カンバーバッチが出演し、BAFTA賞にノミネートされたロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの『シェイクスピア・ライブ』では振付を担当。クイーンのミュージカル『ウィー・ウィル・ロック・ユー』、ルーシー・ジョーンズ、ラミン・カリムルー出演のコンサート『シークレット・ガーデン』、今夏ロンドンで大ヒットしたミュージカル『ボニー&クライド』では演出・振付家として才能を発揮している。日本では2017年にミュージカルコメディ『パジャマゲーム』の振付を担当。そして2020年にラミン・カリムル ーとサマンサ・バークスが共演し話題となった『CHESS the Musical』では演出・振付を手掛けた。2022年、映画『トゥモロー・モーニング』で長年の夢であった映画監督としてのデビューを果たした。
ストーリー
ロンドンのテムズ川沿いに暮らすキャサリン(サマンサ・バークス)とビル(ラミン・カリムルー)。画家と小説家になることをそれぞれ夢見て、大恋愛の末に結婚。10年が経ち、可愛い子どもにも恵まれ、キャサリンは現代アートの有望作家、ビルは売れっ子コピーライターとして成功していたが、いつの間にか心がすれ違い離婚を決意していた。離婚前夜、ふたりは出会った頃の結婚前夜の記憶を辿りはじめる…。
予告編
公式サイト
12月16日(金) YEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
12月23日(金)よりアップリンク京都にて公開
監督:ニック・ウィンストン
脚本・音楽:ローレンス・マーク・ワイス
出演:サマンサ・バークス、ラミン・カリムルー、ジョーン・コリンズ、フラー・イースト、ハリエット・ソープ、ジョージ・マグワイア
2022年/イギリス/英語/110分/2:1/5.1ch/原題:Tomorrow Morning
日本語字幕:石田泰子
後援:ブリティッシュ・カウンシル 配給:セテラ・インターナショナル
©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan