『ジョン・レノン~音楽で世界を変えた男の真実~』数多くのお宝写真や友人たちによって明かされるジョンの生い立ちとザ・ビートルズ誕生秘話
1980年12月8日。地球上で最も知られている人物の一人と言っても過言ではない伝説のアーティスト、ジョン・レノンが亡くなったその日から42年の月日が経った今。2022年12月8日に公開されるのが本作、『ジョン・レノン~音楽で世界を変えた男の真実~』だ。
ジョンがどのような環境で育ち、そしていかにして“ザ・ビートルズ”が誕生したのか。本作はジョンの生い立ちと、彼の人格、後に彼の音楽に影響を与えた出来事を、数多くのお宝写真や関係者へのインタビューを交えながら掘り下げていく。ジョンやザ・ビートルズのファンであればもちろんのこと、未公開の歴史的映像・資料や友人などの出演もあるため、誰でも楽しめるような内容となっている。英国ナショナル・フィルム・アワードでは最優秀ドキュメンタリー映画賞にもノミネートされており、ザ・ビートルズの歴史研究家デイヴィッド・ ベッドフォードと、詩人であり作家でもあるポール・ファーリー教授が語り手を務めている。
決して裕福な生まれではなかったジョン・レノン。ジョンが幼い頃、彼の父親は家にいないことが多く、母親は別の男と浮気をするなど、家庭内の状況は理想とは程遠いものだった。当時を振り返ったジョン本人も、「(両親にとって)いらない子だった」と語っている。しかし、様々な友人との出会い、音楽との出会いを通して彼の唯一無二の人格は少しずつ形作られていった。父親がジョンをニュージーランドに連れて行こうとしていた話、友達がアムステルダムで買ったリトル・リチャードのレコードを聴いて、数ヶ月後にはギターを買っていた話など、ジョンにまつわるエピソードが紹介されていく中で、特に感慨深いのは、とある教会で行われたコンサートでのポール・マッカートニーとの出会いのエピソードではないだろうか。違う学校に通っていた彼らの運命的な出会いがなければビートルズが誕生していなかったかと思うと、その空間に特別な感情を抱かずにはいられない。
文字通り音楽で世界を変えた伝説の男、ジョン・レノン。彼の知られざる真実やザ・ビートルズの誕生秘話が、ついにスクリーン上で語られる。
ロジャー・アプルトン監督インタビュー
──なぜこの映画を作ろうと思ったんですか?
5歳のころ(1963年)からビートルズのファンでね。ご存知の通り、ビートルズの初期シングルが出たのは1962、1963年。以降ずっとビートルズが好きなんだ。僕と素晴らしいビートルズ史研究者のデヴィッド・ベッドフォードは、10年くらい前に作られた、ジョン・レノンのソロアルバムについてのドキュメンタリーを見た。そこでインタビューされていたアメリカ人のプロデューサーのある回答に、僕はとても腹が立ったんだ。その人は「ジョン・レノンは、60年代の申し子だった」と言っていてね。僕は「それは違う、だって、レノンは1940年、第二次世界大戦中に生まれたのだから60年代の申し子とは言えない」と思った。ジョンは1960年代とは全く違う世界で育ったんだ。むしろ1960年代を作り上げる一端を担った人物で、1960年代に形作られた人間じゃない。だからこそ、みんなが知るジョン・レノンを形作った、(彼の周りの)世界についての映画を撮るというアイデアに惹かれた。どんな出来事が彼を形作ったのか語りたかったんだ。その人の幼年期と青年期を理解し、どのような世界で育ったかを理解すれば、その有名人がどういう人物なのかも理解しやすくなると思うからね。
──どのようにして本作を作りましたか。
映画を撮る時の不文律があってね…映画には数人の歴史家も、全体に文脈を与えるために出演しているけど、それ以外の出演者は全員ジョン・レノンを直接知っていた人たちにしたよ。僕は、セレブが会ったこともない人についてコメントしているような映画が大嫌いなんだ。ジョン・レノンが子供のころの、そして10代の頃の個人的な知り合いである、マイケル・ヒル、ナイジェル・ウォリー、ティム・ホームズ、ドン・ビーティー、スタン・ウィリアムズ、ロッド・デイヴィス、コリン・ハントン、レン・ギャリーに会うことが、僕にとっては重要だったんだ。もちろんジョンの最初のバンド、ザ・クオリーメンに会うことは大事だった。そうして、エピソードをつなぎあわせていったんだ。例えば、少なくともビートルズ界隈ではとにかく有名な、演奏するジョンを写した最初の写真がある。彼がチェックのシャツを着て、ギターを持ち、マイクを掴むために体を傾けている、リヴァプールのストリート・パーティでの写真だ。そこで考えるんだ、この話を映画に入れたい、じゃあ誰に話してもらおう、とね。幸いなことに、その写真を撮った男性は存命だったから、ザ・クオリーメンのドラマー、コリン・ハントンと一緒に現場に行って、その日その場所にいた、2人の重要な目撃者に、当時の出来事を語ってもらった。映画作りのプロセスとして、当時実際そこにいた人たちに語ってもらうことが、僕が一番大事にしたことなんだよ。
──ジョンと、前妻のシンシアのデートについてのエピソードも面白かったです。
ヘレン・アンダーソンは、素敵な女性で、アート・カレッジで、シンシアの親友だったんだ。シンシアは4年ほど前に亡くなったけど、ヘレンとはずっと連絡を取っていて、仲が良かったんだ。ジョンとシンシアの交際の始まりについて直接語れる人がいて、とても幸運だった。そして、ヘレンが私たちに一所懸命伝えようとしたのは、ジョンとシンシアがずいぶんと変わった組み合わせだった、ということだと思う。ヘレンはシンシアがジョンと付き合うなんて、あるいはその逆も、全く想像できなかったらしい。でも同時に、ジョンとシンシアはとてもとても親しくて、お互いに愛し合っていたということも強く言っていた。でも、難しい関係でもあって、当時ジョンはまだ自分探しの途中だったのだろうと思う。劇中、ジョンのDVについてもでてくるよね。実際、この映画に出てくるハンター・デイビスというビートルズの歴史家も、ジョンやポールなどビートルズ全員を知っていた人だけど、レコードの彼の曲の一つ『*ゲッティング・ベター』(*回復・改善の意)に「俺は恋人を殴る男だった」という歌詞がある、と話している。ジョンとシンシアの関係は複雑だったんだろう。思うに、あの時点ではシンシアとの関係が非常に重要だったんだと思うよ。シンシアが当時の彼の人格を安定させたんだと思う。当時、ビートルズのメンバーの関係にポジティブな影響を与えた存在だったんだろう。
──ビートルズのドキュメンタリーは他にもあるのですが、本作はどういうところが異なるのでしょうか。
まず、2曲を除けば、映画にはビートルズの音楽は入っていない。ジョンが成長する過程で聴いていた音楽を使いたかったんだ。ちなみに、映画のサウンドトラックは(海外版の)CDとして購入できるのだけど、それにはジョンが聴いて育った1940年代、1950年代の音楽が収録されている。ビートルズのドキュメンタリーの大半は、ビートルズの音楽ばかりという気がするんだ。本作は、ジョンが有名になりかけていたところで映画が終わるけど、当時、ビートルズの曲の99%はまだ作詞作曲されていない。映画に入れるべきじゃないと思ったんだ。
それに、個人的に体験したエピソードを語れる人にしかインタビューしなかった、という点も他と違うと思う。
そして、映画の舞台をリヴァプールに設定した点もだね。この映画に参加した人たちは、撮影したスタッフ、映画監督も、みんなリヴァプール出身だから、他とは違う解釈を提供できるだろう。僕がリヴァプールを好んで住んでいる理由の一つは、リヴァプールがイギリス的ではないからだ。リヴァプールの人は「マージーサイド人民共和国」と呼ぶ。社会主義的な都市だ。70年代から80年代にかけての首相、マーガレット・サッチャーは知っているかな?サッチャーはこの都市では嫌われ者だ。リヴァプールはとても左翼的で、社会主義的な都市だったからね。1980年頃、リヴァプールは経済的にも、社会的にもどん底で壊滅的な状態だった時、当時の保守的な政府の政策の一つは、リヴァプールを朽ち果てるままに衰退させて、ほとんど消滅させようというものだった。その結果、アウトサイダー的、負け犬の街という雰囲気が出来上がったんだ。そういうことを理解すると、ビートルズやジョンの始まりについても、まったく違った理解が得られるでしょう。
──読者にメッセージをお願いします。
1963年から、そしてアメリカでは1964年から、ビートルズが世界の文化を席巻した。音楽だけでなく、世界の文化そのものを席巻していた。それを、彼らがどのようにやり遂げたのか、60年代の文化の大きな要素を理解するには、ビートルズのルーツを理解する必要があると思う。ビートルズをリードしたのはジョン・レノンで、彼のルーツを理解することができるのがこの映画だ。だから、それを理解したいと思う人には、この映画を見てほしい。
監督プロフィール
映画監督、脚本家。20年間、映画を作り続けている。もともとはポップビデオを制作していたが、その後、ファクトフィルムの制作に移行。ファクトリーフィルム制作の経験から、寄稿者からベストを引き出すための幅広いスキルを身につけた。その中には、国際的に成功したミュージシャンや俳優、著名な政治家、アーティスト、文化評論家などが含まれている。また、少数民族の人々や、高齢者、社会的に排除された人々、依存症に苦しむ人々など、特に弱い立場の人々へのインタビューを行い、成功させてきた。30本以上の放送用映画と、放送以外の企業や芸術部門の制作物の経験が豊富。新しいブロードバンドTVチャンネルの立ち上げに主導的な役割を果たす。『No Hamburg No Beatles』『Get Back』(2016)などで知られる。
ストーリー
最も知名度の高い歴史上の人物の一人ジョン・レノン。1940 年にイギリス・リヴァプールに生まれた彼の生い立ちから、ザ・ビートルズの前身のバンド " ザ・クオリーメン " の結成、史上最も成功したポップ・バンド " ザ・ビートルズ " への道のりを、子供時代の友人や " ザ・クオリーメン " のメンバー、当時の関係者のインタビューを交えて追いかける。父親代わりだった伯父のジョージ、母・ジュリア、親友・スチュアート・サトクリフの死など、ジョン・レノンを形作ったエピソードを年代順に紹介。昼休みに友達の家でレコードを聞いていたエピソードなどジョンがアーティストになる過程に加え、1962 年に結婚した最初の妻であるシンシア・パウエルをデートに誘った時の模様など、プライベートについてのエピソードも多数あり、ジョンの栄光の裏の、真の人物像に迫る。
予告編
公式サイト
12月8日(木) アップリンク吉祥寺、池袋シネマ・ロサ、アップリンク京都ほか全国順次公開
監督・編集:ロジャー・アプルトン
製作:ギャリー・ポパー
製作総指揮:デイヴィッド・ロジャーズ、スティーヴン・ロジャーズ、マーカス・シーランク、アレナ・ウォーカー、ジョン・アダムズ
出演:ゲイリー・メイヴァーズ (ナレーション/声の出演 )、ロッド・デイヴィス(ザ・クオリーメン)、ビル・スミス(ザ・クオリーメン)、コリン・ハントン(ザ・クオリーメン)、レン・ギャリー(ザ・クオリーメン)、チャズ・ニュービー(ザ・ビートルズ)、デイヴィッド・ベッドフォード(ザ・ビートルズ歴史研究家)、ポール・ファーリー(詩人、作家)
2018年/イギリス/英語/93分/カラー/1.85:1/原題:Looking for Lennon
監修:ピーター・バラカン/藤本国彦
配給:NEGA
©SEIS Productions Limited