『ドーナツもり』ドーナツの穴から見える神楽坂を舞台にした44分の物語

『ドーナツもり』ドーナツの穴から見える神楽坂を舞台にした44分の物語

2022-12-01 11:11:00

ネットで「ドーナツの穴」とググると「ドーナツの穴論争」が起きていることがわかる。

なぜドーナツに穴が空いているのか。料理的に考えると揚げるとき中心部に熱が通りやすくするためと考えるのが普通だが、もともとドーナツの真ん中にはクルミが乗っていて、そのクルミが落ちたものが一般化した説、船乗りのグレゴリー船長が母親の作った揚げパンがいつも中心が生焼けだったので真ん中を指で押し出した説などが書かれているのを散見する。

『ドーナツもり』の定谷美海監督は、本作を作るきっかけを「ドーナツって、なんで穴が空いてるんだろう?」と、ふと思ったからだという。

「その穴がわたしには少し寂しそうに見えました。 人間ってみんな、大なり小なり穴があって、それぞれの形で欠けている。その欠けた部分を埋める何かがまた、それぞれにあるんじゃないかと思います。 穴から覗いたり覗かれたり、穴を空けたり、埋めたり埋められたり。そんなふうにドーナツの穴に思いをはせていたとき、雑な言葉遣いをする人と出会い、”あぁ、大変だ。この人は誰かに穴を空けていることに気づいていない”とハラハラしました。同時にその人にも穴があったのかもしれない…とも思いました」という発想でどこか欠けた人間たちを描くことにしたという。

神楽坂に実在するドーナツ屋さんを舞台にし、その『ドーナツもり』ではドーナツの穴論争となった「穴」が1個80円で販売されている。実在するお店では販売されていないようであるが、ドーナツの穴は3個100円くらいなら食べたくなる。

この映画のもう一つの特徴は神楽坂ご当地映画、ということである。定谷監督は次のように語る。

「神楽坂は、新しいものができても、アナログな匂いがする街です。 街の形状も特徴的。特に奥神楽坂は道が狭く、家もお店も小ぶり。『ドーナツもり』もミニチュアのような店構え。つまり、声をかけずにはいられないんです。ほうっておけないんです。それは、神楽坂だからあり得る人間関係なんじゃないかと思います」

ドーナツの穴から見える神楽坂の44分の物語を覗いてみてはどうだろうか。

 

定谷美海監督インタビュー

── 脚本づくりで心がけていたことは何ですか?

初めて書いた脚本だったので、随分と幼稚で荒削りだったと思います。計算できておらず、編集で切ったシーンも実はたくさんあります。この映画の設計図となれていたのかは正直わからないですが、それでもその片鱗に、登場人物たちが抱える悩み、喜び、企みなんかを入れるように心がけました。

文字だけで全員とゴールを共有するという難しさ、この初心を常に忘れたくないです。

── 主人公の公子に中澤さんを起用した理由を教えてください。

オファーした理由は中澤さんの声です。 『あのこは貴族』という映画を観たとき、彼女が出ているシーンはほんの僅かで台詞も少しでしたが、少し枯れた声とまるいおでこが忘れられずにいました。『オーシャンズ11』でいう、ジョージ・クルーニーやブラッド・ピットではなく、あの双子が気になって仕方ない、そんな感じでした。 公子という人物をキュート一色にしたくなかったので、声質は重要だと考えていました。

絵描きである公子。黒くて真っ直ぐな髪を赤毛のくるくるパーマに変えてもらいました。 他の役ができなくなるからと、長い期間髪型を変えてもらうことは難しいことなのに、二つ返事で、むしろ「いいねいいね!」とノってくれた中澤さん。 髪が変わり、本読みを進める中、あの街のどこかで公子が生きているような気がしました。
今思えば、彼女に初めて会った日から時間を重ねるごとに、彼女自体の人柄に公子を見た気がします。

── 演出はどんなところにこだわりましたか?

この映画は会話劇なので、2人で話しているシーンが多いんです。 全てのショットを決めて計画書を作って撮影に臨みました。会話から生まれる心情をどう切り取ればいいだろう?緊張感や、何かの予兆を演出するには…?狭い店、狭い道、狭い街、だからこそ生まれる人間関係そのものを見せるには、どう立つか?どう座るか?ドーナツの形を感じさせる構図は何か…?
撮影前、それらを悩み、構想し、話し合っていた時間が1番楽しかったです。
現場の雰囲気は緊張感よりも柔らかさを重要視していました。現場の空気は映ると思っていますし、この映画の優しいまあるいイメージを全員で共有したかったので。

監督プロフィール

1986年生まれ、石川県出身。CM業界で活動後、トロントへ渡航。2020年帰国後、脚本を学び、2021年、自身初の短編『それでも幸福でいなさい』を監督。SSFF、おおぶ映画祭にて上映。

 

ストーリー

東京・神楽坂にある、小さなドーナツ店、ドーナツもり。主人公の公子はイラストレーターの仕事の傍ら、ドーナツ屋でバイトをしている。 このお店に訪れるお客さんは風変わりな人たちばかり。好奇心旺盛な公子は、お客さんの人生にお節介にも介入していき、助けたり、気付かされたり…。そんな彼らとの交流を通して、公子は自分自身と向き合うようになる。

 

予告編

 

公式サイト

12月2日(金)より アップリンク吉祥寺にてレイトショー公開

企画・脚本・監督:定谷美海
製作プロデューサー:臼井正明 
協力プロデューサー:堀寛和
助監督:関口アナン
撮影:木津俊彦 照明:津覇実人
美術:吉田透 録音:柳田耕佑
スタイリスト:山根梨菜子 ヘアメイク:中原康博
音楽:若狭真司

2022年/日本/44分/16:9(4:3)/カラー/5.1ch

©映画『ドーナツもり』