『シスター 夏のわかれ道』「私の人生は私のもの」中国の一人っ子政策下で人生の選択を迫られた女性をめぐる感動作

『シスター 夏のわかれ道』「私の人生は私のもの」中国の一人っ子政策下で人生の選択を迫られた女性をめぐる感動作

2022-11-22 19:00:00

2週連続興収No.1(2021/4/2~4/15 Box Office Mojo調べ)の快挙を成し遂げ、中国国内の有力な映画賞で作品、監督、脚本など多部門にノミネートされた『シスター 夏のわかれ道』。アメリカの映画批評サイトRotten Tomatoesでも満足度100%を叩き出し、若者を中心にSNSでも盛り上がりをみせている本作が日本の劇場にやってくる。

監督は前作『再見、少年』(2020年)で長編デビューを果たした新鋭のイン・ルオシン。主人公のアン・ランは、岩井俊二監督作『チィファの手紙』(2020年)で注目を浴びた新世代スター、チャン・ツイフォンが演じる。そして、弟役は映画初出演で撮影当時は4歳半だったダレン・キム。フレッシュな2人による自然体で息の合った演技に、思わず心を奪われる。

舞台は中国四川省の省都、成都。一人っ子政策下で生まれ、看護師として病院で働くアン・ランは、北京で医者になるという夢を叶えるために日々受験勉強に励んでいた。しかし、両親が交通事故で急死。突然の出来事に呆然とする彼女のもとに現れたのは、見知らぬ6歳の弟、ズーハンだった。親戚たちは、実の姉であるアン・ランがズーハンを育てるべきであると決めつけるが、彼女の「地元を離れて北京で医者になりたい」という夢は決して譲れるものではなかった。

「私の人生は私のもの」

至極当然にも思われるこの言葉。ところが、アン・ランを含め私たちは皆、複雑な人間同士の繋がりの中で生活している。アン・ランとズーハンが姉弟関係にあることは紛れもない事実である。離れていても、目には見えなくても、そこには確かな繋がりがある。
アン・ランが何を思い、どんな選択をして、姉弟がどんな未来に向かって歩んでいくのか、思わず見守りたくなる二人の背中を劇場でご覧になってはいかがだろうか。

 

イン・ルオシン監督インタビュー

──この物語を撮ろうと思ったきっかけ

脚本にこんな描写がありました。弟が姉の部屋の窓に向かって外から石ころを投げ、生かじりの知識でイタズラっぽく大声で曹植の「七歩詩」を暗唱するのです。“豆の茎で豆を煮る。豆は釜の中で泣く。豆も豆殻も根は同じ。どうしていじめるの?”その光景は瞬時に私の脳裏に広がりました。暗闇の中、窓の外では星がきらめき、2人の瞳は見つめ合い互いの心の中を探りあっている。短い時間で2人の間に無数の複雑な感情が湧き上がる。姉も弟も、心の中で密かに問いかけている。“あなたの存在は、自分にとって何を意味するのだろう?”と。このシーンが撮影を決意した決め手です。

──チャン・ツィフォンとダレン・キムのキャスティング経緯について

ツィフォンとは前作『再見、少年』で一緒に仕事をしたのですが、彼女の強靱さ、感覚の鋭さ、動揺しない所が、アン・ランの不屈の闘志を持ったタフなキャラクターと非常にマッチしていたのです。唯一の懸念は、彼女の年齢が、役柄より5歳以上も若いという点でした。しかしツィフォンと絶えず脚本や役柄についてディスカッションを重ね、徐々にアン・ランに入り込んでいた姿をみて、彼女がこの役を演じきれると確信をしました。キムはオーディション動画を見た時、母親の指示に従いながらしぶしぶ演技している感じでした。しかし、その目はとても澄んでいて、つたない動作の中にみせる自然な姿が、とても印象的でした。面接で彼にゲームの中で演技の練習をさせてみると、非常にリラックスして、反応も素早く、高い集中力を見せました。すべてが素晴らしかったので、大勢の中から最終的に弟役に選びました。彼は撮影時4歳半で、役柄より幼かったのですが、見事に演じ切りました。

──この映画をつくる上で参考にした作品

参考としたのは、エドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』、是枝裕和監督の『奇跡』、『海よりもまだ深く』です。何回も見返しました。

──中国の公開時、SNSで議論となった当時の反響

観客からは、とても感動した、姉弟の関係、叔母と叔父のキャラクターについて議論が起こったり、姉弟の運命はどうなるのだろうか、といった多くの反響がありました。また自分の人生を歩もうとするアン・ランの気持ちを、身近に受け取った女性もいました。いろんな議論が起こり、それを感じて嬉しく思いました。

──観客に伝えたいメッセージ

本作は、劇中の人物にとって100日あまりの出来事です。私は最終的にオープン・エンディングを選びました。この結末で私が伝えたかったことは、家族によって心を傷だらけにされ、すでに“家を出る”決断をした女の子の固く閉ざされた心の扉が、歳の離れた弟との新たな姉弟関係によって、わずかに開いたとしたら、彼女はどんな選択をするのだろうか?最終的な選択は、弟の手を取り、ひとまずその場から逃げ出すことでした。この先の暮らしがどうなるか、私はクリエイターとして、彼女に絶対的な結末を与えることはできません。アン・ ランに、そして観客に伝えたかったことは、世代間の隔たりに痛みは付き物であるということ。そして、我々は永遠に対立しながら、その複雑で親密な関係の中にいるということです。共に生き、折り合う点を探すのか、あるいは消極的になるのか、または反抗して決裂するのか?アン・ランは羽ばたくことができる以上、羽ばたいてほしいと願うと同時に、この残酷で変化の多い世界でも愛を持ち続けて欲しいと願っています。

監督プロフィール

中国安徽省出身。1986年生まれ。中央戯劇学院演劇文学演出科を卒業し、『イェルマ』『真夏の夜の夢』など多くの演劇や、映画の脚本、監督を担当。2015年に脚本を手がけた『結婚しましょう』は中国の小劇場の興行トップ10に入る。2020年に『再見、少年』で長編映画デビューし、本作が監督2作目となる。

 

ストーリー

看護師として働くアン・ランは、医者になるために北京の大学院進学を目指していた。ある日、疎遠だった両親を交通事故で失い、見知らぬ 6 歳の弟・ズーハンが突然現れる。望まれなかった娘として、早くから親元を離れて自立してきたアン・ラン。一方で待望の長男として愛情を受けて育ってきたズーハン。姉であることを理由に親戚から養育を押し付けられるが、アン・ランは弟を養子に出すと宣言する。養子先が見つかるまで仕方なく面倒をみることになり、両親の死すら理解できずワガママばかりの弟に振り回される毎日。しかし、幼い弟を思いやる気持ちが少しずつ芽生え、アン・ランの固い決意が揺らぎ始める…。自分の人生か、姉として生きるか。葛藤しながらも踏み出した未来への一歩とはー。

 

予告編

 

公式サイト

11月25日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

監督:イン・ルオシン
脚本:ヨウ・シャオイン
出演:チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・ユエンユエン、ダレン・キム

2021年/中国語/127分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:我的姐姐

日本語字幕:島根磯美
配給:松竹 宣伝:ロングライド

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