『銀河2072』元パパ・タラフマラの演出家・小池博史による、映像の質感を構築するSF映画
『銀河2072』は、今から50年後の日本という設定で描いた作品だ。監督は、元パパ・タラフマラの演出家、小池博史で、本作が長編劇映画第一作となる。
「死体に意識を残す」研究が完成した男・ウィが国家権力に追われる身となったというSF世界をエッジのたったモノクロームの映像で描いていく。
「舞台と映画は全く違うものです。舞台は、空間があって、生身の人間がそこにいて、ライブで行われますが、映画作品には空間はありません」という小池は、二次元のスクリーンに、空間を構築するのではなく、映される映像の質感を構築していき、観るものの感性を刺激するのだった。
本作を的確に評した松尾貴史氏のコメントを紹介しておく。
「何だろう、この前衛的であるのに懐かしい感覚は。タルコフスキーや黒澤の昔の作品を思わせる風合いと、登場人物の大時代な表現が、イメージのコラージュとして私にささくれ立ってくる。インスタレーションでもあり、舞台表現でもあり、絵画のようでもある。アンダーグラウンドの匂いに鮮烈な色が浮かんでくる。これは鑑賞ではなく体験だった」
小池博史監督 映画試写会後の質疑応答
2022年10月20日 @映画美学校試写室
――作品を作るにあたって、どんなことをテーマにして進めたのですか?
現在の世界が50年前には想像できなかった世界となっている以上に、今から50年後の世界はさらなる大変化を起こしているでしょう。世界、そしてその中にいる人間がどんな方向に変わっていくのか、まったく変わらないのか? ということをテーマにして作品を作りました。
――これまで舞台を作ってきた小池さんにとって、映画を作る上でどのような点が面白かったですか?
舞台を始める前は映画を撮りたいという気持ちを強く持っていました。しかし空間・時間・身体による創作の面白さに目覚め、そちらに邁進してきましたが、コロナに直面し、40年振りに映画製作の思いがふつふつと芽生えてきて、これはチャンスだと、とても嬉しくなりました。
実際、舞台と映画は全く違うものです。舞台は、空間があって、生身の人間がそこにいて、ライブで行われますが、映画作品には空間はありません。しかしそこにはモンタージュによって時間や空間を自在に操作できる可能性があります。同じ空間の中で方法を変えながら撮っていったり、断片を繋げて異なる時間軸を作っていき、編集によって生き返らせるのは映画ならではのもの。舞台にもいろんな手法があり、似た要素はあるのですが、映像は繋ぎ方ひとつで、まるで変わってしまう、そうした手法を舐めるように味わった感触です。ぼくにとっては古くて新しい手法として、嬉々として遊んだ感覚でした。
――舞台ではできなかったことを映画でできている、という点は、他にもありますか?
やはり、複製芸術として作品を残せることが最大の相違でしょう。舞台はその場にいた人しか観ることができません。もちろん保存という意味では、映像を使って舞台による映画として形にしていくのは可能ですが、舞台そのものとは全くの別物になってしまいます。昨年8月の完全版マハーバーラタ公演*では、コロナピーク下での開催になってしまい、観客数も当初の予想の半分になってしまいました。映画だとこんな状況下にあっても、あとに残すことが可能だし、もちろん資金面の問題やさまざまな権利等の問題はあるのですが、多くのお客さんに楽しんでいただける可能性は増えるので、そこは利点として挙げられると思います。
――本作を作っていく上で困難だった点はどこですか?
とにかく時間との戦いでした。最初から最後まできっちり細かく予定を立てて進行させるわけですが、少しずつ遅れがでてくる。そして時間が足りなくなってしまう。そこで、思い描いていたものをどんどん壊し変換していくことが常に求められました。その点舞台も同じではありますし、細部は色々と変わっていても、思い描いたことを実現できたとは思っています。
――これからの展望は?
実は、新たな映画作品の台本もすでに書いてあり、その実現化を図りたいのですが、一方、来年以降もポーランド、シンガポール、マレーシア、スペイン、ブラジルと海外での舞台制作が続きます。世界情勢の移り変わりを見つめつつ、海外と日本、世界、人間のあり方を作品展開していきたいのです。世界はグローバリズムから逃れられない中、断片化が進み、大きなギャップが生まれています。脳の弱体化も気になります。大学で教えている学生たちを見ていても、分かりやすいものにしか意識が向かず、既存のものに収まらない異質なものを恐れ、避けてしまうようになっていることにとても危機感を感じるのですが、作品を通じて強烈な異質性の提示ができれば、と思っています。これからも、映画、舞台問わず、自分自身が見たことがない、体感したことがない、全く新しいものを作り、見つけることを続けていくつもりです。
監督プロフィール
1982年〜2012年、パフォーミングアーツグループ「パパ・タラフマラ」主宰。全55作品を創作。2012年〜2022年、小池博史ブリッジプロジェクト(HKBP)主宰。25作品を創作。現在までに演劇・舞踊・美術・音楽等のジャンルを超えた空間芸術作品を16カ国で制作、北南米、欧州、アジアオセアニアの41カ国で公演。2021年、9年に渡るプロジェクト「完全版マハーバーラタ」を上演。2020年より映画制作を開始。
ストーリー
50年後。日本。
「死体に意識を残す」研究を行っていたウィは、恋人であるヨーコが死に瀕したことにより実験を行い成功させたが、国家権力に追われる身となった。徹底して情報が隠蔽される中、小隕石落下が噂された。その影響ゆえか、ヨーコとの意思疎通が困難になってきたウィ。そこで昔、共に研究を行っていた男たちを呼び寄せ、その捜索に加担させる。集まった男たちはヨーコへの思慕を抱く者や実験結果を横取りしようとする者たちであった。一方のヨーコは死んでいるのに意識があることの違和感をウィに訴えるのだが…。
予告編
公式サイト
11⽉18⽇(金)~12月1日(木) アップリンク吉祥寺にて公開
監督・脚本:小池博史
撮影:小林基己、白尾一博、澤平桂志
編集:白尾一博
音楽:太田豊 美術:森聖一郎
音響編集:太田豊、小池博史 録音:木村友美、中島怜音、村田眞理名
衣裳:kuuki 字幕デザイン:梅村昇史
助監督:齋藤麻生 制作:村田眞理名、穂坂裕美、黒田麻理恵、岡村夏希
写真:小池博史
出演:徳久ウィリアム、伊藤健康、櫻井麻樹、瞳、キモトリエ、松島誠
2022年/日本/68分/モノクロ(パートカラー)/シネマスコープ/ステレオ
製作:株式会社サイ