『わたしのお母さん』亀裂が生じた親子の心情を、決して説明することはなく映像と時間で表現していく

『わたしのお母さん』亀裂が生じた親子の心情を、決して説明することはなく映像と時間で表現していく

2022-11-15 18:00:00

『わたしのお母さん』は、三人姉弟の長女で、今は夫と二人で暮らす夕子(井上真央)と、明るく社交的な母・寛子(石田えり)の物語だ。夕子は、幼い頃からなぜか苦手意識を抱いており、母とのあいだに自分の思う気持ちとは別に亀裂が生まれているのを感じていた。

映画では、その親子の心情を、決して説明することはなく映像と時間で表現していく。二人のその関係が静かに変化していくのを観客は寄り添い感じていく。

誰よりも近い存在なのに、誰よりも遠い母と娘の物語である本作について、娘を演じた井上真央と母を演じた石田えりが的確なコメントを残している。

 

井上真央(娘・夕子)

一人の女性が抱えている想いに心が引っかかりました。自分を産み、育ててくれた母に対し、「こうでなきゃいけない」という葛藤や、できない自分への罪悪感、さまざまな想いに触れて、夕子のように生きづらさを感じている人にも届けられるものがあるのではないかと思いました。
杉田監督から頂いたお手紙にも、『彼女の痛みをほんの少しだけでも和らげることはできないだろうかと、脚本を書き進めてきた』とあって。監督と一緒に、夕子を救ってあげたいような気持ちになりました。


石田えり(母・寛子)


「生きていく、ということは、つまるところコミュニケーションだと思っている。自分の思っていること、考えていることを、どうしたら伝えられるのか。逆に、相手の言うことを先入観なしに受け止めて、理解できているのか。 本当のことを言うのは勇気がいるし、時には嫌われるし、面倒くさい。人は良いところばかりではないのだから、片目をつぶってつき合う方がうまくいくという考え方もある。でも、本当に大切だと思うなら、命がけで伝えることも必要だと思う。いくら心をくだいても誤解されて、悪意の倍返しにあうこともある。そして、自分の伝え方が悪くて傷つけてしまったのかと悩んだりもする。それでも、まずは、自分自身に対して、百パーセント正直であるのか、そこからはじめる。だから、たとえ悲しくても先へ進める。そして時には、全開の会話で、笑って元気になれる」

杉田真一(すぎた まさかず)監督インタビュー

――『わたしのお母さん』の話はどのようにつくられていったのでしょうか。

前作『人の望みの喜びよ』の後、次回作の企画を考えていた頃に「毒親」という言葉をよく目にすることがあって。
あまりに強い言葉だったので、強烈に印象に残りました。でもそれと同時に大きなレッテルを貼っているようで、違和感も感じたのが正直なところです。今思うと、この違和感が映画の始まりでした。そこから少しずつ自分なりに調べてみると、一括りには語れない、ひとりひとりの物語があるのだと知りました。これは白や黒で簡単に語ることはできないと考えるようになり、その間に広がっている人それぞれのグラデーションにじっくりと焦点を当てた映画をつくりたいと脚本を書き始めました。

――脚本クレジットは、杉田さんと松井香奈さんとの共同となっていますね。

最初は僕が書いていったんですが、やはり女性の視点が必要だなと思い、途中で松井さんに読んでもらい自由に書き直してもらいました。そうしたらより明確に女性同士の対立の話のようになっていて、それはそれで僕には書けないおもしろい話ではあったんですが、今回は対立の物語を描きたい訳ではありませんでした。もう少し性別や年齢を取り払った話にしたいという原点に立ち返り、僕が引き取ってさらに書き変えていきました。あのタイミングに一度もう一人の視点が入ってくれたことで、自分が目指す方向がよりはっきりしたような気がします。

――必ずしも、母VS娘の物語として発想されたわけではないんですね。

親子の関係を描きたいというより、夕子という女性が一歩を踏み出す瞬間を描きたかったんです。これを乗り越えれば次に進める、というはっきりとした敵や問題を自覚できていれば案外頑張れる気がするけど、本当にしんどいのは、いつまで頑張り続ければいいのか、ゴールが設定できないまま日常が続いていくことだと思うんです。夕子という人は、ずっと何かお母さんとの関係のなかで息苦しさを感じてきたけど、その理由がはっきりとはわからない。だから何をどう解決すればいいのかもはっきりとはわからない。でもだからこそ、そこにじっくり焦点を当てた映画にしたいと考えました。

監督プロフィール

1980年生まれ、兵庫県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、阪本順治監督、大森立嗣監督、山下敦弘監督らに師事。2011年、短編映画『大きな財布』を脚本・監督。国内外で高い評価を受け、多くの賞を受賞。特にヨーロッパ各国での評価は高く、フランスでテレビ放映され好評を得る。2015年、長編デビュー作『人の望みの喜びよ』を脚本・監督。ベルリン国際映画祭で「光り輝く宝物のような映画」と評され、ジェネレーション部門のスペシャルメンションを獲得。同映画祭の最優秀新人作品賞にもノミネートされた。

 

ストーリー

三人姉弟の長女で、今は夫と暮らす夕子は、急な事情で母の寛子と一時的に同居することになる。明るくて社交的な寛子だったが、夕子はそんな母のことがずっと苦手だった。不安を抱えたまま同居生活がスタートするが、昔と変わらない母の言動に、もやもやした気持ちを抑えきれない夕子。
そんなある日、ふたりの関係を揺るがす出来事が――。

 

予告編

 

公式サイト

11⽉11⽇(金) ユーロスペース、アップリンク京都ほか全国順次公開

監督・脚本:杉田真一
脚本:松井香奈 
撮影:鈴木周一郎(JSC) 照明:志村昭裕 
録音:山本タカアキ、高田林 整音:長島慎介 
美術:宇山隆之 装飾:塩川節子 編集:早野亮 
スタイリスト:白石妙子 ヘアメイク:豊川京子 
音楽:稲岡真吾 サウンドエディター:伊東晃 
助監督:窪田祐介 製作担当:牧信介、伊達真人 
企画:堀部昭広、三好保洋 プロデューサー:兼田仁
メインテーマ:mayo 「memories」(ドリーミュージック)
出演:井上真央、石田えり、阿部純子、笠松将、橋本一郎、ぎぃ子、瑛蓮、深澤千有紀、丸山澪、大崎由利子、大島蓉子、宇野祥平

2022年/日本/106分/カラー/1.85:1/5.1ch/DCP

製作:刈谷日劇、アン・ヌフ、TCエンタテインメント、東京テアトル、U-NEXT、リトルモア
製作プロダクション:プラザ知立、ベストブレーン
配給:東京テアトル 宣伝:マジックアワー

©2022「わたしのお母さん」製作委員会