『RIGHTS! パンクに愛された男』56歳のパンクロッカーをめぐる、"18の大人たち"や不条理な社会に生きる人必見のドキュメンタリー
1990年に「CRACK The MARIAN」としてメジャーデビューを果たし、56歳になった今でも変わらずパンクロッカーであり続けている男、カズキこと武富カズキ。有田焼製造会社経営の窯元が実家である彼は、現在は会社も引き継ぎ、昼間は社員と一緒に工場で働くなどパンクロッカーと窯元という異色な二足の草鞋を履いている。カズキがいかに人生を歩んできたのかを彼の歌や言葉と共に振り返り、多くの著名人を惹きつけたカズキの魅力に迫ったのが本作、『RIGHTS! パンクに愛された男』だ。「CRACK The MARIAN」やもう一つのバンド「JUNIOR」のファンはもちろんのこと、”18の大人たち”や不条理な社会に悩まされている人必見の作品である。
本作を手掛けた小島監督は次のように語る。
「もうちょっと楽に生きていいんじゃない」
「声を出したいときは出したらいいし」
世界の情勢だけでなく、国内の問題や仕事、学校のこと。それだけでなく些細な日常における人間関係や自分自身のこと。悩ましい問題で溢れ返っている世の中に、コロナという地球規模の問題が起こったことでより一層閉塞感を感じている人が増えた今。そんな人たちに向けて、本作は、我慢をせず、気楽に好きなことを追求して、もっと自分を愛してほしいと叫んでいる。
「パンクは、宝物。誰にも渡さない」/カズキ
小島淳二監督×カズキ(CRACK The MARIAN/JUNIOR)
(写真左:小島淳二監督、右:カズキ)
──導入部分が非常に分かりやすいパンクについての解説になっていて、パンクスやバンドマンだけに向けた映画でなく、多くの人に観てもらいたいという意思を感じました。
小島:ある世代以降はパンクを知らないので、まず最初にパンクを説明せんといかんかなと思って。最初はパンクについて、普通にウィキに出ているような情報を載せてたんですけど、たまたまキャプテンやブライアンらにインタビュー出来ることになって。せっかくだから現場にいた人の話の方が面白いかなって、彼らを撮りに行ったんですよね。
KAZUKI:チャーリーの78歳の誕生パーティーがイギリスのブライトンであって、それに出るためにオイとベースのYOJIRO、鳥谷兄弟で、チャーリーがくれた曲を演奏するために行って。で、そのタイミングでキャプテンやブライアンやユースに会える機会ができてインタビューした。
──『RIGHTS! パンクに愛された男』はChapter 1:CRACK The MARIAN、Chapter 2:JUNIOR、Chapter 3:Country、Chapter 4:Family、Chapter 5:Punkと、大まかに5つのチャプターに分かれています。そのチャプターののクレジットが出る前にパンクに関しての導入部分があるのですが、一見本編と関係ないのかなと思ったら、チャプター3以降にそれが生きてくる感じがしました。パンクという革新的な選択をしたKAZUKIさんが、有田焼という伝統を受け継ぐというところが特にドラマチックで。
小島:カズキさんが、最初は伝統的なことが嫌で有田を出て行ったのに、結局今は向き合わなきゃいけなくなっている構図というか、それがすごい面白いなって思って。それなのに家業をしつつもバンドをするっていうところとか、なんだかんだ言いながら歴史のある窯元を絶やしたくないっていうKAZUKIさんの気持ちとかもだんだん分かってきて、映画的には面白くなったかなと思ってるんですけどね。家のこと、会社のことが本当に大変だったから、どこまで踏み込んで行ったらいいか僕も分からなくて、少しずつ一言一言聞き出して。で、お母さんに出てもらったり、会計士の人に出てもらったりして少しづつ話が深まっていったというか、面白くなったと思いますね。……でも、本当はもっといろんなことがあったと思うんですよね(笑)。
KAZUKI:一部やね。ハハハ。裁判とか破産問題とか。でも、それを全部しよったら暗~い(笑)。
小島:ドロドロした映画に。ハハハ。
KAZUKI:でも、曝け出していいかなって。
──ネガティブなこともポジティブに変えていって、誰も恨むことがないというメンバー間の仲も素晴らしいなと。作中でもKAZUKIさんもTAICHIROさんも「友達が宝物だ」と 仰っていました。小島監督はそんなバンドの関係性をどう思われましたか?
小島:結局、仲が良いんだなって。当時のトラブっていた頃に、その現場にいたわけじゃないんですけど、乗り越えて今、さらに強固に仲が良くなっているというか、その関係は素晴らしいなって。パンクっていうのを軸にみんなが繋がっているっていう関係性が伝わればなっていうのがありますね。仕事を中心に繋がっている人じゃないっていうか、好きなもので繋がっている関係って人生を豊かにするっていうか、その方が人生楽しくないですかということも伝わればなと思っていますね。
KAZUKI:実際商業的に一度も成功したことはないけどね。ヒット曲も1曲もないし(笑)。
──タイトルの「パンクに愛された男」っていうのはインパクトがありますね。
KAZUKI:最初は「パンクに殺られた男」やって……。
小島:「殺られた」と書いて「やられた」って読ませて。でも、それはネガティヴすぎるんじゃないかってKAZUKIさんから指摘があり、そこから「パンクに愛された男達」に。バンドは集合体だってことで「達」が付いて。でも、それじゃあ弱いんじゃないかってことで「パンクに殺られた男」に。誰が言い出したか覚えてないんですけど……。
KAZUKI:それは(三代目魚武)濱田(成夫)さんが。
小島:濱田さん! そうそう、濱田さんが「カズキやったら男やないか」と。で、「パンクに愛された男」になったんです。
──本作の見所をお願いします。
KAZUKI:色々あるけど、どっかで能天気なことがあるのかな。人に助けられて生きてきたかなって。バンドばしよって繋がった友達がおるけん、やっぱり大事かなと。それはメンバーだけじゃなく。手伝ってくれるスタッフとかも。恵まれてるというか、おかげでやってこれてるとか。役場の同級生もこういうことしゃべってとかを言わなくても的確なことを言ってくれて、ウチのオヤジが有田焼のことで東ドイツに行った時の資料とかも持ってきてくれて。
小島:今は若い子もギスギスしていて、「メールも即返信しろ」とか殺伐としているというか、息苦しそうなんですけど、こんな風に生きている人もいますよって知ってもらって、もうちょっと楽に生きていいんじゃないって。声を出したいときは出したらいいし。パンクを軸に、友情だったり音楽で繋がっている関係とか生き方みたいな、そういうことが伝わればいいかなって思うんですけどね。あと、同年代にも観てもらいたいですよね。喪失感とかあると思うんですよ。仕事でしか繋がってない人とか。かと言って趣味もなくて、こっからどうやって生きようかとかって聞くじゃないですか。だからそういった人には羨ましいなと思いつつ、俺も頑張ろうと思ってもらえるかもしれんなと。
MOBSPROOFインタビューより引用
監督プロフィール
資生堂、Honda、uniqlo、ANAなどのTVCM、ミュージックビデオなど多くの映像作品を輩出している。
第57回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に「THE JAPANESE TRADITION 〜謝罪〜」出品。 2018年、映画「形のない骨」で長編映画監督デビュー。第72回ワルシャワ国際映画祭コンペティション部門にノミネート。
ストーリー
武富カズキ 1966年1月28日生まれ。佐賀県有田町出身。実家は、有田焼製造会社経営の窯元。繁盛期は、従業員400人を抱える裕福な家で 育つ。堅苦しいしきたりや伝統、家柄を重んじ威張り散らす父親。家庭環境に嫌気を感じていた頃、イギリス ロンドンで生まれたパンクロックの衝動的な音楽とビジュアルに、心を奪われえる。学年1、2位だった勉学は止め、髪を逆立て、ビリビリに破った親父のシャツを着て、友人たちとバンドを組み上京し、CRACK The MARIANとして自主制作したレコードが、メジャーレコード会社の目に止まり、1990年にメジャーデビューを果たした。CDの発売、全国ツアー、フェスと順調に見えたバンド活動だが事務所の社長が借金を残し消えてしまう。それから、新たな音楽の方向性を探るべくJUNIORを結成。ライブを重ねる。
バンドを志してから40年余。56歳になったカズキは、パンクロッカーを辞めない。実家の会社は、長男の代に変わっていたがデタラメな経営で多額の負債を残したまま行方不明。二男は精神疾患で病院隔離中。実家は、差押え競売となり母は、戸惑うしか無かった。ついに、カズキは有田に帰郷する。
急遽会社を引き継ぐが、うまくいかない。そこで、若い頃からカズキに憧れていたSAI HOLDINGS会長 惠美須氏に相談、知恵を絞り再建を手伝う彼の男気。コロナ禍でさらに厳しい状況が続く。昼間は、社員と一緒に工場で働き、夜は作詞、作曲の日々。この不平等な社会の歪みをユーモアを交えて歌い続ける。そんなカズキに影響を受けた著名人も多く、彼らのインタビューからもカズキの魅力に迫る。
パンクって何だろう?パンクに愛された男のドキュメンタリー。
予告編
公式サイト
11⽉11⽇(金) アップリンク吉祥寺ほか全国公開
監督・撮影:小島淳二
プロデューサー・撮影:安岡洋史
編集:宮本久美
ナレーション:矢沢洋子
アニメーション:泉優次郎 グラフィックデザイン:丸橋桂
出演:カズキ、タイチロー、ヨージロー、テル(CRACK The MARIAN)/HOOKER、GO!、HAV、Atsushi Armstrong jr、FAT KOHEY(JUNIOR)/くっきー!(野生爆弾)、綾小路翔(氣志團)、小沢一敬(スピードワゴン)、まちゃまちゃ、三代目魚武濱田成夫、川上剛(ヒルビリーバップス)、チャーリー・ハーパー(U.K. Subs)、キャプテン・センシブル(THE DAMNED)、ユース(Killing joke)、ブライアン(EATER)、TORIYA、TORIYA.J、TOSSA、QP、TAKEOKI(ceramictions)、恵美須健也
2021年/日本/110分/16:9
制作:teevee graphics