『あちらにいる鬼』批判できるものなら、してみてよ、この男と女の関係を(豊川悦司)

『あちらにいる鬼』批判できるものなら、してみてよ、この男と女の関係を(豊川悦司)

2022-11-11 15:00:00

『あちらにいる鬼』は、昨年11月に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴と、妻子ある作家・井上光晴、そして2人の不倫を承知しながらも最期まで添い遂げた井上の妻、笙子の3人の物語を、その渦中で育った井上夫妻の長女で、直木賞作家の井上荒野が3人をモデルに綴った小説『あちらにいる鬼』が原作の映画だ。

普通のモラルを基準にしては逸脱したその関係を愛という言葉で表すのは容易いかもしれないが、出演者と原作者は次のように語っている。

寺島しのぶ(長内みはる/寂光役=瀬戸内晴美/寂聴)
「原作を読んだときは、篤郎は女性が大好きで、どう考えても彼が悪いと解釈できる局面がたくさんありましたが、演じているうちに、篤郎だけが悪い人じゃない、どう考えてもみはるは女篤郎だなと思うようになりました。配偶者がいようが、子供がいようが、ふたりとも思う存分、やりたいように生きた。それで演じるのが大分楽になりました」

豊川悦司(白木篤郎役=井上光晴)
「僕はこの映画を観てくださった方に問いたいです。批判できるものなら、してみてよ、この男と女の関係をと。炎上させられるのならしてみてくださいよ、この3人の関係を。僕はこの映画のタイトルの鬼とはこの3人ともだと思う。3人が3人、楽しんで鬼ごっこをしていた人生ではないでしょうか」

広末涼子(白木笙子役=井上郁子)
「笙子は篤郎を“自分”として感じている。彼と精神的に一体化することで、彼への理解と同時に自分自身の安息の場を探していたのだ、ということです。笙子は彼の生き様、経験、芸の肥やし、抱える孤独感、その全てを理解したかった。篤郎の感情を共有したかったのだと思います」

井上荒野(小説『あちらにいる鬼』作者)
「タイトルのために、普段から気になる言葉をメモするようにしているんですが、そのメモに”愛の鬼”という言葉があったんですよね。後から見て”愛”という言葉は使いたくないなと思いましたが、”鬼”というのは面白いなって。寂聴さんから見たら母のことかもしれないし、母からみたら寂聴さんのことかもしれない。父が鬼ごっごの鬼であるというイメージも浮かびました。”今、鬼はあっちの人のところにいる“みたいな、ね」

好書好日:インタビュー・作家・井上光晴とその妻、そして瀬戸内寂聴…長い三角関係の心の綾 井上荒野さん「あちらにいる鬼」

作家同士の尊敬、男と女との情愛、そして女と女との不思議な連帯感。みはると篤郎、そして笙子が築いた言いようのない繋がりは、愛というものの底知れなさと、さらにその先の境地に迫る濃密な人間ドラマを観る者に突きつけることだろう。

 

廣木隆一監督プロフィール

1954 年生まれ、福島県出身。1982 年『性虐!女を暴く』で映画監督デビュー。1994 年サンダンス・インスティテュートの奨学金を獲得して渡米。2003 年の『ヴァイブレータ』では、第 25 回ヨコハマ映画祭を始め、国内外 40 以上の映画祭で監督賞ほか数々の賞を獲得する。主な作品に『余命 1 ヶ月の花嫁』(2009)、『軽蔑』(2011)、『きいろいゾウ』(2013)、『ストロボ・エッジ』、『さよなら歌舞伎町』(2015)、『夏美のホタル』(2016)、『P と JK』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『彼女の人生は間違いじゃない』(2017)、『ママレード・ボーイ』、『ここは退屈迎えに来て』(2018)、『ノイズ』、『夕方のおともだち』(2022)など。公開待機作に『母性』、『月の満ち欠け』がある。

 

ストーリー

1966年、講演旅行をきっかけに出会った長内みはると白木篤郎は、それぞれに妻子やパートナーがありながら男女の仲となる。もうすぐ第二子が誕生するという時にもみはるの元へ通う篤郎だが、自宅では幼い娘を可愛がり、妻・笙子の手料理を絶賛する。奔放で嘘つきな篤郎にのめり込むみはる、全てを承知しながらも心乱すことのない笙子。緊張をはらむ共犯とも連帯ともいうべき3人の関係性が生まれる中、みはるが突然、篤郎に告げた。

「わたし、出家しようと思うの」。

 

予告編

 

公式サイト

11⽉11⽇(金) アップリンク吉祥寺ほか全国公開

監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦
原作:井上荒野『あちらにいる鬼』(朝日文庫)
音楽:鈴木正人
出演:寺島しのぶ、豊川悦司、広末涼子、高良健吾、村上淳、蓮佛美沙子、佐野岳、宇野祥平、丘みつ子、夏子、麻美、高橋侃、片山友希、長内映里香、輝有子、古谷佳也、山田キヌヲ

2022年/日本/139分/5.1ch/シネマスコープサイズ/カラー/デジタル/R15+

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2022「あちらにいる鬼」製作委員会

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