『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合』SNS以前のリアルな出会いが作るカルチャー

『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合』SNS以前のリアルな出会いが作るカルチャー

2022-10-20 20:00:00

歴史上の事実なので『All the Streets Are Silent』のエンディングで流れるクレジットを記してもネタバレにならないだろう。

「スケボー業界は20億ドルに成長、ヒップホップは音楽界で売上トップに」「Run-D.M.C.はロックの殿堂入り」「モービーの『プレイ』は大ヒット」「2001年ズーヨークはマーク・エコーに売却」「Supremeは21億ドルで買収された」

スケボーシーンから生まれたアパレルブランドSupremeを買収したVFは全米最大のアパレルメーカーで、「VANS」「THE NORTH FACE」を傘下に持つ。

ストリートカルチャーがビジネスに吸収されたことをクレジットするエンディングから本作を巻き戻して見てみると、プレスに書かれている以下のテキストを読むのが適しているだろう。

「本作を観ると、陽光降り注ぐ西海岸カリフォルニアのスケーターやヒップホップの文化とはまるで異なる、雑多な魅力と多様性に溢れた大都会ニューヨークならではの独特のスタイルが育まれたことがよくわかる。いまやそれは洗練と成熟を極め、グローバルな巨大規模の産業システムへと展開している。そのぶん高級化やセレブリティ主導の商業主義、ポーザー(格好だけのヤツ) の一般化など、保守化に呑み込まれたこともまた否めない。そんな中、ストリートカルチャーは 今でも可能か? その初心や本質はどこへ行ったのか?――という問題提起を投げかける一本でもある」

1987年から始まるこの映画はその後の1997年までの10年間を描いている。その時代には「自由」があった。日本人のユウキ・ワタナベが作ったクラブ、「マーズ」は複数のフロアがありそれぞれ違うコンセプトの音楽がかけられていた。ドアマンは「マーズ」のコンセプトであるミックスを作り出すべく、意図的に多種多様な客を選別して入場させていた。ラップ好きの黒人もいれば、スケートボーダーの白人もいた。「マーズ」のパズルにハマりさえすれば出自は関係なかった。

クラブ、ラジオ、グラフィティ、ヒップホップ、スケートボード、ファッション、全てがミックスされた当時のニューヨークのストリートカルチャーの魅力を描いた本作に熱くなるのは間違いないだろう。

ただ時は流れ、本作を観る我々にプロスケーターのベアトリス・ドモンドは語る。
「街でスケボーをしてるときにある女性に遭遇した。全身スケボーファッション。その人、私とすれ違うと ”あっ!” て声を上げたの、スケーターみたいな格好してるくせに、びびるなんてあり得ない」と格好だけのポーザーを皮肉っている。

1990年と今の違いはなにか、SNSだろう。当時は、リアルな場所に出かけ、そこで音楽を聴き、人と出会い、ストリートの熱気を体で感じられた。それらを体で記憶した。

今は「All the Streets Are Silent=すべてのストリートは沈黙している」といったとこだろうか。
では、メタバースの時代が来れば、そこは時空を超えたクラブ・マーズのようなカルチャーがミックスした空間で新たな音楽やアートや人との出会いがあるのだろうか。
キーワードは「身体性」のような気がする。そんなことを考えさせられる映画だ。

ストーリー

無法地帯と呼ばれていた1987年のNYダウンタウン。そこには自分たちの遊び場所を求めて、ストリートにたむろするスケーターの不良少年たちが居た。彼らは88年、クラブ・マーズの開設により、それまで距離のあったヒップホップの連中とも積極的に関わっていく。この多種多様な交流の場をきっかけに、人気スケートブランドのズーヨークやシュプリームも立ち上がった。やがて95年、地元スケートキッズのリアルな生態を捉えた映画『KIDS/キッズ』が社会現象級の大ヒット。こうしてNY流儀のストリートカルチャーは一気に世界へと拡大するのだが……。

 

ジェレミー・エルキン監督

モントリオールで育ったエルキンはスケートボード、音楽と映画製作に情熱を注いでいた。2000年代には数々のスケートビデオを撮影し、その後ニューヨークへ移住。ニューヨークではヴァニティ・フェア・マガジンでビデオ制作を担当。2018年にフランス人アーティスト、JRによるブルックリンミュージアムの短編映画「The Chronicles of New York City」の撮影と監督を務める。エルキンは自身のパッションを融合させて、長編ドキュメンタリー映画デビュー作である『All the Streets Are Silent』を製作した。

 

予告編

 

公式サイト

10⽉21⽇(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
10⽉28⽇(金)よりアップリンク京都にて公開

監督:ジェレミー・エルキン
ナレーション:イーライ・ゲスナー
音楽:ラージ・プロフェッサー
製作総指揮:デヴィッド・コー
製作:デイナ・ブラウン、ジェレミー・エルキン
インタビュー出演:ロザリオ・ドーソン (俳優『KIDS/キッズ』)、レオ・フィッツパトリック(俳優『KIDS/キッズ』)、イーライ・モーガン・ゲスナー(Zoo York設立メンバー)、ジェファーソン・パン(プロスケーター、現Supremeブルックリン店店長)、ジーノ・イアヌッチ(プロスケーター、スケートブランドPOETS創業者)、マイク・ヘルナンデス(プロスケーター)、キース・ハフナゲル(プロスケーター、ストリートブランドHUF創業者)、マイク・キャロル(プロスケーター、スケートブランドGirl Skateboards、Chocolate Skateboards、Lakai Limited Footwear共同創業者)、ジョシュ・ケイリス(プロスケーター)、ピーター・ビシ(プロスケーター)ほか

2021年/アメリカ/89分/原題:All the Streets Are Silent: The Convergence of Hip Hop and Skateboarding(1987-1997)

日本語字幕:安本 熙生
配給:REGENTS

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