『千夜、一夜』国境離島を舞台に夫が失踪した二人の女を描く
佐渡島で撮影された『千夜、一夜』、日本政府は海域の重要な管理として佐渡島など離島を「国境離島」と名付けている。本土に住んでいると全く意識をすることのない「国境」。
人と人が出会い、共に過ごした場合、二人の関係には目には見えないけど、同じ境界の中で過ごした時間がある。その二人が別れた場合、それまで二人が認識していた境界からどちらかが出て行き、別々の場所で時間を過ごすことになる。
『千夜、一夜』では、女と男が同じ境界の中で過ごし、男が理由もなくその境界から出ていってしまう二人の女を描く。
一人は30年前突然姿を消した夫を待ち続ける登美子(田中裕子)、もう一人は2年前失踪した夫洋司(安藤政信)を探す奈美(尾野真千子)。妻と夫で築いた境界線の内側から夫が理由を告げることもなく失踪したのである。二人で過ごした境界の中に一人で生活する時間が流れていく。
ドキュメンタリー作品を多く制作してきた久保田直監督は、佐渡島を舞台にした理由を「不審船が発見されたり、特定失踪人に認定される人が多い地域だから」と言い、北朝鮮による拉致の可能性を排除できないとした「特定失踪者リスト」が公開されたときにそれを調べると、「”拉致されたのではなく、自分の意思で別の場所で暮らしている”と家族に連絡を入れた事例が多くあったという話を聞いて驚きました」と語っている。
拉致で家族が失踪したと思っていた時に、本人から”別の場所で暮らしている”と連絡がきたとしたら、生きていて良かったと思うけれど、どのように受け止めたらいいのかわからないのではないか。監督はこの話を基にして、拉致問題を掘り下げるというよりかは、何か家族の物語が作れないかと考え、本作の制作に至ったという。
国境離島の海岸を歩く田中裕子の姿、それは自身の境界線をどちらかに踏み外す危うさを感じさせるのだった。
ストーリー
北の離島の美しい港町。登美子の夫が突然姿を消してから30年の時が経った。彼はなぜいなくなったのか。生きているのかどうか、それすらわからない。漁師の春男が登美子に想いを寄せ続けるも、彼女は愛する人とのささやかな思い出を抱きしめながら、その帰りをずっと待っている。そんな登美子のもとに、2年前に失踪した夫を探す奈美が現れる。彼女は自分のなかで折り合いをつけ、前に進むために、夫が「いなくなった理由」を探していた。ある日、登美子は街中で偶然、失踪した奈美の夫・洋司を見かけて…。
久保田直監督
1960年、神奈川県出身。大学卒業後、1982年からドキュメンタリーを中心としてNHK、民放各社の番組制作に携わる。2007年MIPDOCでTRAILBLAZER賞を受賞し、世界の8人のドキュメンタリストに選出される。2011年に文化庁芸術祭参加作品「終戦特番青い目の少年兵」(NHKBSプレミアム)を演出。劇映画デビュー作『家路』が第64回ベルリン国際映画祭パノラマ部門をはじめ、第38回香港国際映画祭、第17回上海国際映画祭に正式出品され、第19回新藤兼人賞金賞、第36回ヨコハマ映画祭森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞した。
予告編
公式サイト
10⽉7⽇(金) テアトル新宿、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほか全国順次公開
監督・編集:久保田直
脚本:青木研次
音楽:清水靖晃
出演:田中裕子、尾野真千子、安藤政信、白石加代子、平泉成、小倉久寛、ダンカン
2022年/日本/126分/カラー/5.1ch/ビスタ/DCP
製作:映画『千夜、一夜』製作委員会 特別製作協力:(株)シャイン、(株)サンテクノ
協賛:サンフロンティア不動産(株)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
制作プロダクション:ソリッドジャム
配給:ビターズ・エンド
©2022映画『千夜、一夜』製作委員会