『3つの鍵』ローマの高級アパートに住む3つの家族が織り上げる緊迫感たっぷりの群像劇

『3つの鍵』ローマの高級アパートに住む3つの家族が織り上げる緊迫感たっぷりの群像劇

2022-09-13 10:00:00

舞台はローマの高級住宅街。同じアパートに住む3家族の隣人たちの、交差し、絡まり合った閉塞的な人間関係が、やがて未来に向けて再生してゆく様をスリリングな展開で描いた本作。ある一つの事故をきっかけに、それぞれの隠されていた扉の向こう側の顔(本性)を浮き彫りにしながら、物語は進んでゆく。

監督を務めるのは、2001年『息子の部屋』でカンヌ国際映画祭パルムドール、『親愛なる日記』で同監督賞を受賞したイタリアの巨匠ナンニ・モレッティ。『親愛なる日記』以降は監督作全てがカンヌ国際映画祭のコンペンティション部門で上映され(『3つの鍵』は第74回正式上映作品)、2012年には審査委員長も務めた。

また本作は、イスラエルの作家エシュコル・ネヴォの『三階 あの日テルアビブのアパートで起きたこと』(発行:五月書房新社)の映画化であり、これまでオリジナル作品を手がけてきたモレッティ監督にとって、初めての原作ものとなる。

パルム・ドール受賞後の記者会見で「監督として変化したとすれば自分が変化したということだ。自分から出発し自分について語り社会、人間生活についてその時の思いを描くのだ。映画制作は人生体験でもある」と語った映画作りに対する姿勢は本作にも遺憾なく発揮されている。

出演はマルゲリータ・ブイ(ドーラ)、リッカルド・スカマルチョ(ルーチョ)、アルバ・ロヴァルケル(モニカ)ら。監督自身も裁判官である父親役として出演する。フランコ・ピエルサンティの静寂と孤独に寄り添う音楽、イタリアの名優たちによる渾身の演技と繊細な演出によって、複雑なストーリーでありながら、個の粒立った存在感が深く印象に残る。

三者三様ならぬ三家族三様の苦悩の日々を、天才的なセンスで一連の物語に編み上げてしまう手腕がとにかく見事だ。コロナ禍を乗り越えようとする今こそ、誰もが無関心でいられないだろう人間同士のつながり、30 年という長いスパンを見通すイタリア映画ならではのスケール感、そしてカタルシスをもたらす着地点の希望の光。この映画には未来を切り拓いてゆく「鍵」が、ふんだんに散りばめられている。

 

ストーリー

ある夜、建物に車が衝突し女性が亡くなる。

運転していたのは3階に住む裁判官夫婦の息子アンドレアだった。

2階のモニカは夫が長期出張中のため一人で出産のため病院に向かう最中で、1階の夫婦は仕事場が崩壊したので娘を朝まで向かいの老人に預けることにした。

小さな選択の過ちが、予想もしなかった家族の不和を引き起こし、彼らを次第に追い詰めていく。

彼らが手にする未来の扉を開く鍵とは?

スリリングな展開に目が離せなくなる。

 

 

ナンニ・モレッティ監督コメント


原作との出会い

この原作に出会ったときは別のスクリプトを構想していたのですが、どうもうまくいかず、何も出てこない状態でした。そこで、脚本家のフェデリカ・ポントレーモリが小説を読むよう勧めてくれたのです。小説を読んですぐに、私の琴線に触れ、私にも関わりがあるテーマがここにあると感じました。

現代社会が抱える孤立する人間、孤独の問題

くしくもこのパンデミックが、嘘をひとつ暴いたのではないでしょうか。小説も映画も、私たちはそれぞれ孤立しつつあり、他者や地域社会(コミュニティ)との関わり合いを避ける傾向にあることを語っています。地域社会など、もはや存在しないのではないかと私たちは考えていました。

ですがパンデミックが、それが嘘であったと暴いたのです。孤立して生きることが、いかに厳しく困難で、間違いであるかということを私たちは目の当たりにし、私たちはこの2年間の想像を絶する状況から、共に一丸となって抜け出さなければならないと知りました。地域社会の価値があらためて問われたわけです。

映画は感染爆発が起こる前に、すでに完成していました。ですがコロナ禍が一段落しつつある今公開されることで、映画はさらに別の意味を帯びるのではないかと思います。

例えば、映画の終幕にある路上のダンスシーンですが、これは小説にはない場面です。あの場面は私たちの創作です。登場人物たちを、まさに彼らの家から、あの建物から、孤立した生活から連れ出して、外の世界に解き放ちたいと考えたのです。あのダンスは未来に向けての第一歩でもあるのです。

ナンニ・モレッティ
監督・俳優・脚本家

1953年トレンティーノ=アルト・アディジェ州ブルーニコ生まれ。ローマで育つ。父は碑文研究者ルイジ・モレッティ。父はまた俳優として度々彼の作品に出演。兄フランコ・モレッティは比較文学者・文学理論研究者で著書の邦訳もある。1976年には最初の長編映画「Io sono un autarchico」を撮影。77年には俳優として『父 パードレ・パドローネ』に出演し、パルム・ドールを受賞。1981年の『監督ミケーレの黄金の夢』でヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞受賞。85年『ジュリオの当惑』ではベルリン国際映画祭、審査員特別賞を受賞。93年『親愛なる日記』でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、2001年『息子の部屋』でパルム・ドールを受賞。ローマでNuovo Sacherという映画館を共同経営している。名前はモレッティの好きなケーキ、ザッハトルテに由来。

 


『3つの鍵』予告編


公式サイト

 

2022年9月16日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、ほか全国ロードショー

 

監督:ナンニ・モレッティ
脚本:ナンニ・モレッティ フェデリカ・ポントレモーリ ヴァリア・サンテッラ
原作:エシュコル・ネヴォ「3つの鍵」(仮題)五月書房新社
出演:マルゲリータ・ブイ(『ローマ法王の休日』) リッカルド・スカマルチョ(『あしたのパスタはアルデンテ』) アルバ・ロルヴァケル(『幸福なラザロ』) ナンニ・モレッティ

2021年| 119分|イタリア・フランス映画|スコープサイズ|原題:Tre piani|字幕翻訳:関口英子

配給:チャイルド・フィルム
後援:イタリア大使館  特別協力:イタリア文化会館

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