“若手映像クリエイターの登竜門”として次代を担う新たな才能の発掘を目指す「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、2019年以来3年ぶりのスクリーン上映と、オンライン配信を併用した初のハイブリッド開催として、7月16日(土)より19回目の開催を迎え、本日7月24日(日)のクロージング・セレモニーにてグランプリほか各賞を発表した。
国際コンペティションでは、最優秀作品賞(グランプリ)にフランス作品『揺れるとき(英題:Softie)』(サミュエル・セイス監督)、監督賞にフランス、ドイツ合作『マグネティック・ビート』(ヴァンサン・マエル・カルドナ監督)、審査員特別賞にボリビア、ウルグアイ、フランス合作『UTAMA~私たちの家~』(アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督)、観客賞にロール・カラミー主演のフランス作品『彼女の生きる道』(セシル・デュクロック監督)が選ばれた。
国内コンペティションでは、長編部門優秀作品賞に『ダブル・ライフ』(余園園監督)、観客賞に『ヴァタ ~箱あるいは体~』(亀井岳監督)、さらに国内コンペティションの審査員による審査を経て国際コンペティション・国内コンペティションを通じた国内作品の中から今後の長編映画制作に可能性を感じる監督に授与されるSKIPシティアワードに『Journey』(霧生笙吾監督作品)が選ばれました。短編部門優秀作品賞に『サカナ島胃袋三腸目』(若林萌監督)、観客賞に『ストレージマン』(萬野達郎監督)が受賞。
『揺れるとき』サミュエル・セイス監督
厳しい現実社会に、繊細な少年は抗えるのか?
子どもの視点で捉えた重厚なドラマ。
10歳のジョニーは東フランスの貧しい地域で、シングルマザーの母と二人の兄妹と共に暮らしていた。敏感で賢い彼は様々な物事に関心を持つが、ある日、都会から赴任してきた新任教師に心惹かれてゆく。
カンヌ映画祭批評家週間でプレミアされた本作は、多感で敏感な少年の成長や恋の目覚めを主題としているが、ヤングケアラーやLGBTQの子どもの問題といった現代的なテーマも盛り込まれ、強い余韻を残す作品となっている。本国では「Drôle de famille!」などのTVシリーズで俳優として知られるサミュエル・セイスは、名門フランス国立映画学校フェミスで監督した短編『Forbach』(08)がカンヌ映画祭シネフォンダシオン第2席、クレルモン=フェラン国際短編映画祭ではグランプリを受賞。長編デビューを飾った、マリー・アマシューケリ、クレール・ブルジェとの共同監督作品『Party Girl』(14)は、カンヌ映画祭ある視点のアンサンブル賞、そして最優秀新人賞に当たるカメラドールを受賞した。『BPM ビート・パー・ミニット』(17)のチボー役で強い印象を残したアントワン・ライナルツやロック歌手でもあるイジア・イジュランなど、キャスト陣も非常に魅力的である。
『ダブル・ライフ』(余園園監督)
私を開いてくれたのはレンタル夫だった。
疑似夫婦がお互いを通じて見えたものとは。
一緒に行くはずだったワークショップを夫にキャンセルされた詩織。同僚から代行業をしている淳之介を紹介され、彼女は夫役を依頼。淳之介に満足した詩織は夫に内緒でアパートを借り、彼と疑似夫婦生活を始める。
他人の体に触れ、そこから相手の気持ちを感じ取ることで自分の新たな感情に気づく身体的且つ心理的アプローチが、劇中の疑似夫婦の展開にうまく絡められている本作。監督は、中国の名門・北京電影学院を卒業後、日本に留学し立教大学の大学院に進んだ余園園。余が万田邦敏教授の指導の下 で完成させた本作は、結婚生活に不満を持つ妻の気持ちを、コンテンポラリーダンスや身体ワークショップといった映画では珍しいコミュニケーションツールを使って表現されている。主人公・詩織を演じる菊地敦子は『大和(カリフォルニア)』(16)の宮崎大祐監督の短編『ざわめき』(19)で主演を務める 実力派。彼女が劇中で見せるダンスや手指の動きが揺れる詩織の胸中を想像させ、そしてどこかあどけなさの残る面差しにふと見え隠れする艶やかさが物語に彩りを添える。本映画祭での上映がワールド・プレミアとなる。
なおオンライン配信は、引き続き7月27日(水)23:00まで開催中。