ニューヨークで映画館が“体験の場”へ進化 プライベートシネマが描く新しい鑑賞スタイル

ニューヨーク・マンハッタンに10月末オープンしたMetro Private Cinemaは、映画館の新しい姿を象徴する存在だ。4〜20名で完全貸切にした上映室で、映画とフルコース料理、飲み物を組み合わせた“高級シネマ体験”を提供する。映画鑑賞だけでなく、食事や会話を含めた時間全体をデザインした空間が特徴となっている。

料金は部屋の利用料が1人50〜100ドル。ここに季節コース(100ドル)や飲み放題(50ドル)を加えると1人200ドル前後(約3万円)になる。リクライニングシートやレコードプレーヤーを備え、上映前の約90分は食事を中心に過ごすという構成だ。従来の映画館というより、プライベートダイニングとシアタールームを融合したような体験型施設に近い。

この企画を主導したのは、アラモ・ドラフトハウスの共同創設者ティム・リーグ。パンデミックを経て「大切な人と過ごす時間」を中核に据え、映画と外食を一体化した新しい映画体験を提示した。アラモが“映画中心”のスタイルであるのに対し、メトロは“外食+映画”へと発想を転換したモデルだ。

ニューヨークでは体験型シネマが多様化しており、4DX や ScreenX のような没入型、Nitehawk Cinema や IFC Center が行うイベント上映、作品に合わせた料理を提供する Fork n’ Film など、劇場は“鑑賞する場所”から“体験の場”へと変化している。その中でメトロは、プライベート型の最上位として際立つ。映画館側が作品選定や料理提案に関わり、誕生日などのテーマに合わせて映画体験全体を“キュレーション”する点が大きな特徴だ。

日本にも貸切型の小規模シアターは増えているが、作品・空間・料理を含めて映画館側が総合的にプロデュースする施設はほとんどない。Metro Private Cinema は、映画を観るだけでなく「映画を軸に過ごす数時間」そのものをデザインする、新しい劇場の可能性を示している。

参照:The Guardian

Metro Private Cinema 公式サイト