『Maelstrom マエルストロム』5月10日(金)よりアップリンク吉祥寺にて公開中。本作を手掛けた山岡瑞子 監督インタビュー&ギャラリー展示のご案内

 

山岡瑞子 監督インタビュー

5/10(金)より『Maelstrom マエルストロム』がアップリンク吉祥寺で再上映される。そこで、本作を手掛けた山岡監督にインタビューを行った。(聞き手:夏目深雪)

 

――私はこの作品、東京ドキュメンタリー映画祭で観て、劇場公開時に試写で観て、今回観直して3度目なんですが、非常に緻密な構成に驚かされました。初見だと山岡監督のモノローグに圧倒されてしまうと思うんですが、落ち着いて観ると幼少期からのご自分で撮った昔の写真、米留学時代/現在進行形の映像、ご自分で製作したアート作品、日記が効果的に組み合わされていて見飽きることがありません。
米留学時代の映像で、大学で撮ったものなどがありますが、あれは?

当時、NYでエディターをされていた若者とたまたま知り合って、頼んで撮ってもらいました。撮ってもらいたい場所の所在地と、どのように撮影して欲しいか細かく伝えて。iPhoneで撮影したそうですが、イメージどおりの映像を撮影して下さいました。あの映像がなかったら、作品として成立しなかったと思います。

――そもそもは山岡監督の全編モノローグで、それが非常に特徴的な映画です。今5分お話を聞かせて頂いただけでも、言葉が溢れ出てくる方なんだな、という印象を持ちましたが、こういう構成になったのはそのせいでしょうか?

母はすごく自己主張が強くてよく喋るのに、逆に父は余り自分の気持ちを外に出さない人で、私自身も、適度に自分の内面を他者に伝えることが苦手だったのですが、事故後、この状態になって、より自分が上手に説明しないと分かって貰えないということがよく分かったので。色んな人種のいるNYの病院での経験も大きかったと思います。
怪我をして何が一番変わったかというと、生活する上で他人が介在することが増えました。今でも、週一でヘルパーさんが掃除を手伝いに来てくれていて。

――なるほど。自分では出来ないことを頼む時に、言葉を使って他人を動かす必要があるわけですね。

そうです。的確な言葉を意識して使う必要があります。

――それが映画の中のモノローグ――諏訪敦彦監督に「選び抜かれた言葉」という誉め言葉を頂いたそうですが――の的確さに繋がっているんでしょうか。

映画にも出てきますが、この作品の直前に私と同じ怪我をしたバルセロナ在住の女性の短編ドキュメンターを撮りました。ただ彼女は編集に対して、あまりハッピーではありませんでした。自分が映したかったことと彼女が伝えたかったことが食い違っていました。その時に、人の言葉で自分の言って欲しいことを言わせるというのは違うのではないか、と。自分の考えてきたことを、自分の言葉で自分の責任で、作品としてまとめたいと思いました。
編集は、実は当初は全く違う編集だったのですが、父が亡くなった時に、幼少期から描くことを決めました。後半は現実と重なってくるので、映画にすることを意識して撮影した映像がそのまま長い尺で使えるのですが、それ以前は映画を作ると思っていないので、過去の作品、ほんの少しの映像、写真、自分の記憶だけしか素材はありませんでした。前半と後半を一つのタイムラインに乗せ、一人の人間の物語にしたい。でも、長々と思っていたことを全部言えばいい訳ではないので、言葉を厳選して、最小限にしようと思いました。

――セルフドキュメンタリーを作ろうとして作った、というよりは、自身の置かれた状況を整理するために映画を作ったという感じだと思いますが、どうして映画だったのでしょうか。

もともとはファインアートを勉強していて、卒業したてで事故が起きたのが2002年、デンマークに2008年に行って、その時にパソコンで映画が作れるんだと気づいたんですね。やりたい、出来るかなと思い、帰国し2010年から映画美学校のドキュメンタリー科で1年学びました。『Maelstromマエルストロム』は2016年から5年半かけて完成しました。

――日本は一時期セルフドキュメンタリーが盛んに撮られ、その文脈がありますが、それらとはかなり違いますね。それらへの批判という側面があるのか、それともただ自分の内在するものを追求したらこのような作品になったのか、どちらでしょうか。

もちろんそれらの映画は観ていましたし、初期の頃はもう少し「映画」をやろうという気持ちもあったのですが、前の人のやってきたことを気にしていたら何も作れないと思って。自分の持っている素材、見てきたこと、自分の考えていることでしかまとめられないですし、もともとアーティストになりたかった人間で、自分の視点を「どう思いますか」と世の中に問いかけるのがアーティストの役割だと思っているというのもありますし。

――観たことのないような映画で、私はそこが一番面白かったです。やはりもともとアートを学んでいらしたので、アートの要素が強いんですね。今回再上映で、新たな観客に出会えることを楽しみにしています。


山岡 瑞子
やまおか みずこ
監督・撮影・編集・ナレーション
映画作家/ア-ティスト。東京生まれ。1998年渡米。2002年Pratt Institute(NY)卒業直後、事故に遭い帰国。中途障害者・帰国者の立場からの制作方法を模索する。2016年、バルセロナで初短編ドキュメンタリー制作。BankART AIR 2021への参加を経て、初長編ドキュメンタリー映画『Maelstromマエルストロム』(2022)完成。米国ピッツバーグ大学Japan Documentary Film Award 2022グランプリ受賞。その他、ドイツ・フランクフルトで開催された第23回ニッポン・コネクション、オーストリア・ウィーンで開催されたJapannual 2023など、国内外での映画祭で上映され、2023年12月、横浜で初めての劇場公開。2023年度ACYアーティスト・フェロー。本作が2023年第97回キネマ旬報文化映画ベスト・テン第5位に選出される。

 

『Maelstrom マエルストロム』は、アップリンク吉祥寺にて公開中(終映日未定)。

アップリンク吉祥寺では、ギャラリー展示も行っている。

ギャラリー展示


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タイトル:『Maelstrom マエルストロム』
公開表記:アップリンク吉祥寺にて公開中~終映日未定
公式サイト:https://maelstromfilm.com/
配給: ムービー・アクト・プロジェクト
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予告編


STORY

2002年NYの美大を卒業したばかりの“私”は、交通事故で脊髄損傷という大怪我を負い、突然それまでの日常を失った。
大混乱(マエルストロム)の中、自身を見つめ再生していく姿を綴った“魂のセルフ・ポートレート”。

2002年6月のはじめ、NYにある美大を卒業し、あと一年間滞在予定だった留学生が銀行に向かう途中、交通事故に遭う。
突然、それまでの日常を失い、それまでの時間が存在しない場に戻った時、何がその人らしさを繋ぎ止めるのか──。
当事者になった“私”は、大混乱(マエルストロム)の中、変わってしまった日常の記録を始める。
事故前の自分と繋がり直し、探している場所に辿り着けることを祈りながら──。