『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』初日舞台挨拶、カザフよりプロデューサーと阿彦哲郎さんの長女が登壇

カザフスタン・日本合作映画『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』の上映がアップリンク吉祥寺で行われた。

映画の主人公でカザフスタンに抑留され2020年6月に亡くなった阿彦哲郎さんの長女・阿彦イリーナさん、阿彦さんの孫の妻であるイリーナ・アヒコさん、同じく抑留者だった三浦正雄さんの孫娘である三浦亜里沙さん、プロデューサー兼カザフスタン側監督であるアリヤ・ウバリジャノヴァさんが登壇した。

今回カザフスタンから阿彦哲郎さんのお墓参りのため来にした娘である阿彦イリーナさんは「映画は3回観たけど、観るたびに涙なくしてはみられない。私の知らない父の苦しかった半生を観ることは本当に辛い。でも、こうした作品を作ってくれて、父の知らないことも知ることができたし、日本の皆さんにもこうして観ていただける。それはとてもありがたい」としみじみと語った。

また、「父は収容所の話は私たちにしなかった。娘たちには楽しい話しかしたくなかったのだと思う。だから、こうして佐野監督たちが、私の父について知らない部分に光をあてた映画を作ってくれたことを、非常に感謝している」とも語った。

 プロデューサー兼カザフスタン側の監督をつとめたアリヤ・ウバリジャノヴァさんは「今回、カザフスタンと日本から、それぞれ公的な資金が出て、こうした映画が作られたというのが本当に素晴らしい事業だったと思っています」とエポックメイキングな作品が完成したことについて率直な喜びを語った。また、「『阿彦哲郎物語』は(忍耐強いとされる)日本人のメンタリティを描いた映画でもあるから、日本人である佐野伸寿監督と協働できたことで助けられた部分も多い」と振り返った。

さらに、邦題の副題としてつけられている<戦争の囚われ人>については、「実は、それはカザフスタン側のタイトル。そのタイトルにした理由は、戦争に囚われていたのは阿彦哲郎さんだけではなく、ある意味で一般市民全員が何かしらの犠牲を払っており、その意味では全員が<戦争の囚われ人>だと思う」と語った。

 最後に、佐野伸寿監督が「阿彦哲郎さんは生きて帰って来られたからこそ、こうした映画を作ることができた。本当は生き残れなかった人たちのことも描きたい。ただ、生きて帰って来られなかった人たちに焦点を当てようとしても、(取材もできないし)現実的には製作することができない。だから、この映画を観てくださった方々には、ぜひ、この映画を通して、生還がかなわなかった沢山の人々がいたことにも想いを馳せていただけたら」と語ってトークを締めくくった。

登壇者右より:佐野伸寿(日本側監督)アリヤ・ウバリジャノヴァ(プロデューサー兼カザフスタン側監督)阿彦イリーナ(阿彦哲郎さんの娘)、イリーナ・アヒコ(阿彦哲郎さんの孫の妻)、三浦亜里沙(三浦正雄さんの孫娘)