女性初ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した監督の日本初公開5作品『メーサーロシュ・マールタ特集』アップリンク京都で6月2日(金)より上映中

イザベル・ユペール、アンナ・カリーナ、デルフィーヌ・セイリグ……名だたる俳優を魅了し、アニエス・ヴァルダがオールタイム・ベストのひとつとしてその作品を挙げた、ハンガリーの映画監督メーサーロシュ・マールタ。

彼女は第二次世界大戦中、スターリンの粛清が吹き荒れるなか、両親を亡くした。孤児となった彼女は、ソヴィエトとハンガリーを行き来する人生を送っていた。彼女の作品にハンガリー事件(1956 年)やファシズムの記憶が度々刻まれてゆく。

1968 年から長編映画を撮り始める。彼女の作品には、闘争志向の強い自立した女性が多く登場する。一方、彼女たちの主体性は、その生きる時代の社会や環境、そして異性との関わりによって常に脅かされるものであったことも同時に示される。ジェンダーやセクシュアリティをめぐり、価値観が大きく移り変わるいま、そしてまたロシアのウクライナ侵攻でヨーロッパ世界が揺れるいま、彼女の眼差しを追体験することは、社会の暴力性を再考する希少な機会にもなり得るだろう。

彼女は 1975 年の『アダプション/ある母と娘の記録』でベルリン国際映画祭・金熊賞に輝いた。ハンガリーの監督としても、女性監督としても史上初の快挙。その後もカンヌをはじめ数々の国際映画祭で受賞を果たし、同時代のアニエス・ヴァルダらと並び、もっとも重要な女性作家としての地位を確立した。

本特集は、驚くほど変化に富む形で繰り返してきた自身の特徴的な主題(孤児、親子関係、女性が直面する問題)、その変奏過程を最大限体験できるラインナップとなっている。女性の主体性を脅かす社会の相貌にカメラを向け続けた、彼女の真摯な眼差しがいま、ここに、レストアで蘇る。

2023年5月26日(金)より公開されているこの特集は、アップリンク京都でも6月2日から上映中。


【特集詳細】
タイトル:『メーサーロシュ・マールタ監督特集 女性たちのささやかな革命』
公開表記:2023年5月26日(金)より 新宿シネマカリテほか全国順次公開
公式サイト:https://meszarosmarta-feature.com/
後援:駐日ハンガリー大使館、リスト・ハンガリー文化センター
配給:東映ビデオ
©National Film Institute Hungary - Film Archive

予告編



上映作品

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ドント・クライ プリティ・ガールズ!
英題 Don’t Cry, Pretty Girls! / 原題 Szép lányok, ne sírjatok!

町の不良の婚約者とミュージシャンの青年との間で揺れる女心を、
バンドの演奏にのせて軽やかに描いた青春音楽映画。

ビート・ミュージックのファンである若者たちは、うだつの上がらない日々を工場での労働に費やしている。ユリは不良青年のうちのひとりと婚約しているのだが、とあるミュージシャンと恋に落ちた。ギグを開くという彼とともに、ユリは小旅行へ出かける。しかし嫉妬深い婚約者と彼の不良仲間たちは執拗にふたりを追いかけ……。
溢れんばかりのビート・ミュージックとともに、当時の息詰まるような社会の閉塞性がたしかに刻印された、珠玉の音楽逃避行劇。 


監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:ズィムレ・ペーテル 脚本監修:ビロー・イヴェット 撮影監督:ケンデ・ヤーノシュ
出演アーティスト:Metro、Illés、Kex、Sziriusz、Tolcsvay Trió ほか
出演:ヤロスラヴァ・シャレロヴァー、ザラ・マールク、バラージョヴィチ・ラヨシュ
1970 年/ハンガリー/ヨーロピアン・ビスタ/モノクロ/89 分/2K レストア
字幕:高橋文子 字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

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アダプション/ある母と娘の記録
英題 Adoption / 原題 Örökbefogadás

触れたら崩れてしまいそうな
カタとアンナの関係をただ見守るという奇妙な体験。

43 歳のカタは工場勤務の未亡人。彼女は既婚者と不倫関係にある。カタは子どもが欲しいのだが、愛人は一向に聞き入れない。とある日カタは、寄宿学校で生活するアンナと出会い、彼女の面倒を見ることにした。次第にふたりは奇妙な友情を育んでいく。
メーサーロシュの名を一躍世界に知らしめた記念すべき作品。家父長制すら歯牙にもかけぬ主人公たちの親密さを、決して見逃してはならない。


監督:メーサーロシュ・マールタ 脚本:メーサーロシュ・マールタ、ヘルナーディ・ジュラ、グルンワルスキ・フェレンツ 脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ 撮影監督:コルタイ・ラヨシュ
出演:べレク・カティ、ヴィーグ・ジェンジェヴェール、フリード・ペーテル、サボー・ラースロー
1975 年/ハンガリー/ビスタ/モノクロ/88 分/4K レストア
字幕:高橋文子 字幕監修:ナジ・アニタ PG12

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ナイン・マンス
英題 Nine Months / 原題 Kilenc hónap

互いに自分が正しいと考え、何度も強気な態度で衝突するユリとヤーノシュ。
「正しいこと」は人の数だけあるのだと痛感させられる。

ユリは工場勤務の傍ら、農学を学んでいる。工場の上司は彼女と恋に落ちる。
ユリは彼に誠実な関係を望むいっぽう、前パートナーとの間に子どもがいる事実を隠している。やがて彼女の秘密は明らかになるのだが、上司は子どもの存在を受け入れるだけの心の準備ができておらず……。
ドキュメンタリー作家としてキャリアをスタートさせたメーサーロシュが、作為性や修飾を極限にまで削ぎ落した「真実」の記録。 


監督:メーサーロシュ・マールタ 脚本:ヘルナーディ・ジュラ、コーローディ・イルディコー 脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ 撮影監督:ケンデ・ヤーノシュ
出演:モノリ・リリ、ヤン・ノヴィツキ
1976 年/ハンガリー/スタンダード/カラー/94 分/4K レストア
字幕:高橋文子 字幕監修:コロンツァイ・バーバラ R15+

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マリとユリ
英題 The Two of Them /原題 Ők ketten

結婚生活に絡めとられる二人の女性の連帯を、
厳しくも誠実なまなざしで捉えた精緻な秀作。

マリの夫は偏狭な男で、ユリの夫はアルコールに依存している。彼女たちはつらい夫婦生活を乗り越え、慰めを求めあう。互いの葛藤を知ったふたりは、それぞれの人生を歩むべく、ある決断をする。


監督:メーサーロシュ・マールタ 脚本:コーローディ・イルディコー、バラージュ・ヨージェフ 脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ撮影監督:ケンデ・ヤーノシュ
出演:マリナ・ヴラディ、モノリ・リリ、ヤン・ノヴィツキ
1977 年/ハンガリー/スタンダード/カラー/98 分/4K レストア
字幕:森彩子 字幕監修:ナジ・アニタ

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ふたりの女、ひとつの宿命
英題 The Heiresses / 原題 Örökség

持てる者と持たざる者。
お互いを補完するための契約のはずが次第に壊れいくふたりの関係に、心揺さぶられる。

1936 年。ユダヤ人のイレーンは、裕福な友人・スィルヴィアからある相談を持ち掛けられる。スィルヴィアは不妊に悩んでおり、イレーンに自身の夫との間で子どもをつくってほしいと言う。そうして生まれた子どもに莫大な財産の相続が約束されたのだが、彼らの関係は悪化の一途をたどる。その頃世界ではファシズムが台頭し……。
幅広い文化圏の映画監督と協業を続けるイザベル・ユペールは、その最初期の重要な出演作として本作を挙げている。この後メーサーロシュは「日記」四部作に代表される歴史映画を手掛けていくが、その契機としても見落とすことができない意欲作。 


監督:メーサーロシュ・マールタ 脚本:コーローディ・イルディコー、メーサーロシュ・マールタ 脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ 撮影監督:ラガーイ・エレメール
出演:イザベル・ユペール、モノリ・リリ、ヤン・ノヴィツキ、ペルツェル・ズィタ、サボー・シャーンドル
1980 年/ハンガリー、フランス/16:9/カラー/105 分/4K レストア
字幕:森彩子 字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

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メーサーロシュ・マールタ監督 コメント

2023 年に日本で私の映画を上映していただけることは、大きな喜びであり光栄なことです。これらの映画は私自身と同じくとても古い映画ですが、自分の作品が新しい世代の中でも生きて楽しんでもらえることは特別な喜びです。

1980 年代のある時期、私は東京国際映画祭のゲストとして日本に滞在していました。正確な年やどの作品で参加したのかは覚えていませんが、年齢に免じてご容赦ください。ですが観客が映画を理解し敏感に反応してくれたこと、そしておもてなしが素晴らしかったことはよく覚えています。私たちのために素敵な小旅行を企画してくださったおかげで、あなたたちの魅力的な国と文化を垣間見ることができました。

私はずっと日本という国について、そして日本映画に興味を抱いてきました。黒澤は私にとって師匠であり、多大な影響を受けました。

古い映画を見つけてくれてありがとう。自由の問題も女性の状況も私が映画を撮った頃からあまり良くはなっていないのですから、これらの作品はきっと、今の時代にも有効でしょう。

映画を見て、考えて、語り合ってください。

敬具
メーサーロシュ・マールタ
2022 年 11 月 20 日、ブダペシュトにて 

メーサーロシュ・マールタ(Mészáros Márta)
監督
1931 年、ハンガリーの首都ブダペシュトに生を受ける。ファシズムが台頭する戦間期、両親とともにキルギスへ逃れるも、父親はスターリンの粛清の犠牲となり、その後、母は出産で命を落とした。ソヴィエトの児童養護施設に引き取られ、戦後ようやくハンガリーへ帰郷する。 1968 年から長編映画を撮り始める。残酷な社会のなかで日々決断を迫られる女性たちの姿を描きながら、ファシズムの凄惨な記憶や、東欧革命の前兆であるハンガリー事件の軌跡など、そのまなざしは暴力と化す社会の相貌をも見逃さない。

1975 年の『アダプション/ある母と娘の記録』は、第 25 回ベルリン国際映画祭において女性監督としてもハンガリーの監督としても史上初となる金熊賞受賞の快挙を成し遂げた。その後もカンヌ国際映画祭をはじめ数々の国際映画祭で受賞を果たし、同時代のアニエス・ヴァルダらと並び、もっとも重要な女性作家としての地位を確立した。最新作は 2017 年の「Aurora Borealis: Northern Light」。

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