第76回カンヌ国際映画祭【コンペティション受賞結果特集】

第76回カンヌ国際映画祭が2023年5月17日〜27日に開催された。今回、最高賞「パルム・ドール」のコンペティションにノミネートされた21作品中、女性監督によるものが7作品と最多であった。プレゼンターのジェーン・フォンダは、「私が初めてカンヌ国際映画祭に参加したのは1963年。当時はまだ小さな授賞式で、女性監督が参加することもなく、それを不自然だと思っていなかった。私たちは、長い道のりを歩んできたことが重要なのです」と『Anatomy of a Fall』で史上3人目のパルム・ドール受賞女性監督となったジュスティーヌ・トリエ監督を祝福した。

 

第76回カンヌ国際映画祭・受賞結果(製作国)

パルム・ドール(最高賞)
『 Anatomy of a Fall 』ジュスティーヌ・トリエ監督

第76回カンヌ国際映画祭【パルム・ドール受賞後フォトセッション】

第76回カンヌ国際映画祭【パルム・ドール受賞後記者会見】

不審死を遂げた夫の殺害を疑われた小説家の妻サンドラの裁判を、唯一の目撃者となる視覚障害者の息子の視点を通して描く法廷劇。成功する妻と、息子の世話に勤しむ夫の家庭ドラマでもある。

ジュスティーヌ・トリエ監督は、「大変嬉しいです。物事は良い方向へ変わりつつあります」と喜びと共同脚本家のアルチュール・アラリ監督にも謝辞を述べて、「年金改革に対する前例のない団結した抗議運動が驚く形で否認されて弾圧された」とフランスの年金改革も批判した。「政府が進める文化の商品化で、フランスの文化的例外(文化は単なる商品ではなく、経済的分野においても、国家の保護を認め、例外的な扱いを行う)が壊されつつある」として、「文化的例外がなければ、今、私はここにいない」と発言し、会見後も、映画の補助金の公的扶助の問題点を説明した。『ONODAー一万夜を超えて』(2021)の監督で本作共同脚本家でもあるアラリ監督は、フランス映画界独自の資金助成モデルの保護活動を主導し、本作も公的機関からの支援を受けていることから、文化相は、トリエ監督の受賞を祝福しつつも、「フランス政府の映画資金助成モデルがなければ、この映画が生まれなかったことも忘れないで」とTwitterで反論。カンヌ市長も「助成金で作られた映画でパルム・ドール受賞した監督の演説は、まるで駄々っ子のようだ」とツイートした。

 

グランプリ
『 The Zone of Interest 』ジョナサン・グレイザー監督(イギリス、アメリカ、ポルトガル)


第二次世界大戦時のアウシュヴィッツ強制収容所の所長とその家族の物語。

 

審査員賞
『 Falle Leaves 』アキ・カウリスマキ監督(フィンランド)

引退を撤回し、現代社会に対するカウリスマキ監督の想いが詰まった作品。

 

男優賞
役所広司
『 Perfect Days 』ヴィム・ベンダーズ監督(日本)

第76回カンヌ国際映画祭【男優賞受賞後記者会見】

一人暮らしのトイレ清掃員の平山は、規則正しい日々を送っている。ささやかな日常の幸せを描いた渋谷区のトイレ改修計画「THE TOKYO TOILETプロジェクト」の一環として製作。

授賞式の壇上に登壇した役所広司は、「僕は、賞が大好きです。でも、こうやって華々しいカンヌ映画祭でスピーチするのは、あまり好きじゃないです。カンヌ映画祭と審査員の皆さま、本当にありがとうございました。『Perfect Days』を観てくださったお客さまも、ここにいらっしゃると思いますが、本当にありがとうございました。この映画を製作した柳井康治さんに、心から感謝したいと思います。彼がいなければ、この映画が世に出ることはなかったと思います。その想いを受け取った監督のヴィム・ベンダーズと脚本の高崎卓馬さん、平山という本当に魅力的な男を書いてくれて、ありがとうございました。撮影現場では、監督とカメラマンのフランツ・ラスティングがこの平山という男に導いてくれました。本当に感謝しています。この作品に参加したスタッフ、キャスト、心配ばかりかけている事務所のスタッフと妻に感謝したいと思います」とスピーチした。

日本人の男優賞受賞は、当時14歳の柳楽優弥以来19年ぶりで、会見後には、「これで柳楽くんに追いつけたかな。柳楽くんも本当に素晴らしい俳優になったし。皆さん、言いますけど、この賞に恥じないように生きないといけないと改めて思います」と語り、海外からの出演依頼には、「参加したい思いもあるが、基本的には、自分の国の映画で世界の人に楽しんでもらえるのが一番かな」と明かした。

 

女優賞
メルヴェ・ディズダール
『 About Dry Grasses 』ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督(トルコ、フランス、ドイツ)

田舎町で教員をしている青年サメトは、イスタンブールへの転任を希望するが叶わずにいた。そこへ女性ヌレイに出会い、ルームシェアする同僚と三角関係に…。

 

監督賞
トラン・アン・ユン
『 The Pot au Feu 』トラン・アン・ユン監督(フランス)

優れた料理人であるユージニーと、その雇い主の有名美食家ドタンの間に愛が芽生えて、数々の美味しい料理は生まれたが、自由人ユージニーは結婚に踏み切らず。ドタンは、愛するユージニーのために料理に挑戦する。

 

脚本賞
坂元裕二
『怪物』是枝裕和監督(日本)


(一足先に帰国した坂元裕二に代わり、是枝裕和監督が受賞後フォトセッションに登壇)

小学校で起きた体罰事件を三つの視点から描いた作品。

日本映画の脚本賞受賞は、第74回カンヌ国際映画祭の濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』以来2年ぶり。一足先に帰国していた坂元は、「『怪物』チームの一人として嬉しいです。感謝します。この脚本は、たった一人の孤独な人のために書きました。それが評価されて、感無量です」とコメントを寄せた。授賞式に代理で登壇した是枝監督も、「今、東京にいる坂元さんにも連絡を取って、本当に喜んでおられました。この作品にとって本当に相応しい評価だなという風に自分では考えております」「僕も感無量です」と受賞後会見で語った。


第76回カンヌ国際映画祭【コンペ受賞結果】

第76回カンヌ国際映画祭【みどころ】