ヌーヴェル・ヴァーグの旗手ゴダールの滅多に観られない 9 作品を公開『追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭』アップリンク吉祥寺で5月19日(金)より上映中

2022 年 9 月 13 日、ひとりの映画監督がこの世を去った。『勝手にしやがれ』で映画界を席巻し、 “ヌーヴェル・ヴァーグ”の旗手として世界中の多くの映画作家に影響を与えてきた監督、ジャン=リュック・ゴダール。その手法は常に斬新で、作品を撮るごとに観る者を驚愕させ、さらには挑発し、世界中のシネフィルたちを熱狂の渦へと巻き込んできた。

この度の特集上映【追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭】では、1960 年代と80 年代を中心に、滅多にスクリーンでは観ることのできない全 9 作品をラインナップ。『カルメンという名の女』での使用曲で印象深いベートーヴェン「弦楽四重奏曲」にのせたオープニングに始まり、『小さな兵隊』からアイコニックな『はなればなれに』のダンスシーン、「最も美しいゴダール映画の一本」とも評される『ゴダールの決別』まで上映作品を各シーンごとに紹介してゆく。

メインビジュアルには、アンナ・カリーナが初めて出演したゴダール映画でもある『小さな兵隊』や、各国で物議を醸した『ゴダールのマリア』をはじめとする全作品のスチールがデザインされた。

2023年4月28日(金)〜 5月18日(木)までヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町にて開催された本映画祭は、引き続きアップリンク吉祥寺でも5月19日(金)より上映中。ゴダールの作品、そして生き続ける〈映画〉そのものを見つめる絶好の、そして稀有な機会となるだろう。

 

【映画祭詳細】

タイトル:『追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭』
公開表記:2023年4月28日(金)より ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町にて開催
公式サイト:http://jlgfilmfes.jp/
配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム

 

予告編

 

■上映作品<長編 9 本>

『小さな兵隊』Le Petit Soldat

1960年/脚本:ゴダール/撮影:ラウル・クタール/音楽:モーリス・ルルー
出演:ミシェル・シュボール、アンナ・カリーナ、ラズロ・サボ

極右のOAS(秘密軍事組織)およびこれと対立する組織FLN(アルジェリア民族解放戦線)の間で翻弄される男女のスパイを描いた長編第二作。60 年に完成していたが、アルジェリア戦争を主題とし、両組織による拷問を批判的に描いたことで63年まで公開されなかったいわくつきの作品。アンア・カリーナが初めて出演したゴダール映画でもある。二人は本作完成後に結婚した。

THE LITTLE SOLDIER ©︎1962-STUDIOCANAL IMAGE

 

『カラビニエ』Les Carabiniers

1963年/原作:ベニャミーノ・ヨッポロ/脚本:ゴダール、ジャン・グリュオー、ロベルト・ロッセリーニ/撮影:ラウル・クタール/音楽:フィリップ・アルチュイ
出演:マリノ・マゼ、アルベール・ジュロス、ジュヌヴィエーヴ・ガレア、カトリーヌ・リベイロ

題名は「歩兵たち」の意。イタリア人作家ヨッポロの同名舞台劇に基づく寓話的反戦・反帝国主義風刺劇。前年に同劇を演出したロッセリーニが、脚本家の一人として名を連ねている。架空の国の貧しく学のない若者二人が、世界の富をわがものにできるとの甘言に釣られて「王様」からの徴兵に応じ出征、破壊と略奪の限りを尽くすが……ジャン・ヴィゴに捧げられている。

©︎Gaumont 

 

『はなればなれに』Bande à part

1964年/原作:ドロレス・ヒッチェンズ/脚本:ゴダール/撮影:ラウル・クタール/音楽:ミシェル・ルグラン
出演:クロード・ブラッスール、アンナ・カリーナ、サミー・フレイ

先頃邦訳が刊行されたアメリカ人作家ヒッチェンズの小説に基づく作品。若者二人組とナイーヴな娘が織りなす三角関係と彼らの犯罪計画を軸とした、奔放な悲喜劇。物語の内と外を自在に出入りする、ゴダール自身の声によるナレーションもユニーク。タランティーノ、ベルトルッチ、ハートリーら本作への偏愛を隠さない映画作家やミュージシャンは数多い。

© 1963 / STUDIOCANAL - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - Tous droits réservés

 

『ウィークエンド』Week-end

1967年/脚本:ゴダール/撮影:ラウル・クタール/音楽:アントワーヌ・デュアメル
出演:ジャン・ヤンヌ、ミレーユ・ダルク、ジャン゠ピエール・カルフォン

各々愛人がいて、密かに互いを殺す機会をうかがうプチブル夫婦。二人は遺産相続のため妻の実家へと車を走らせるが、この長旅はトラブルや奇妙な人物たちを通じて次第に混沌とした非現実的なものへと変貌していく……性と政治の季節に作られたポストモダン的黒い喜劇。交通渋滞を描いたくだりの移動撮影は、映画史上最も長いものの一つだとされる。

©︎Gaumont

 

『パッション』Passion

1982年/脚本:ゴダール/撮影:ラウル・クタール/ヴィデオ撮影:ジャン゠ベルナール・ムヌー
出演:イザベル・ユペール、ミシェル・ピコリ、ハンナ・シグラ

欧州古典絵画の数々を活人画として再現した芸術映画製作に取り組む野心的ポーランド人監督。国際的製作班による「(完成しない)映画作りを描いた映画」としての側面を備える本作は、夏の陽光に満たされたかつてのゴダール映画『軽蔑』を冬の光の中で再創造する。ここでも物語は芸術(創造行為)と生活(性や金銭を巡る諸問題)の間を往還するだろう。

©︎Gaumont

 

『カルメンという名の女』Prénom Carmen

1983年/脚本:アンヌ゠マリー・ミエヴィル/撮影:ラウル・クタール、ジャン゠ベルナール・ムヌー
出演:マルーシュカ・デートメルス、ジャック・ボナフェ、ミリアム・ルーセル

テロリストと思しき集団と共に銀行を襲撃する美貌の娘カルメンと、彼女と恋に落ちた警備員ジョゼフがたどる数奇な運命。そこにカルメンのおじで精神病院に入院中の元映画監督ジャン(ゴダール自身が演じている)およびベートヴェンの弦楽四重奏曲を練習する演奏家集団が交差しつつ、悲喜劇的なラストですべてが合流する、ゴダール流“カルメン映画”。

© 1983 STUDIOCANAL - France 2 Cinéma

 

『ゴダールのマリア』Je vous salue, Marie

1985年/脚本:ゴダール/撮影:ジャン゠ベルナール・ムヌー/編集:アンヌ゠マリー・ミエヴィル
出演:ミリアム・ルーセル、ティエリ・ロード、ジュリエット・ビノシュ

聖母マリアをスイスの女子学生マリーへと変換し、イエスの処女生誕の物語を現代に置き換えて語り直した、ある意味挑発的な作品。カトリックの教義に言及しつつ、マリー役のルーセルが全裸となる場面があるためヨハネ・パウロ二世に批判され、上映禁止措置がとられた国もある。また抗議活動や爆破予告の対象となった劇場もあり、各国で物議を醸した。

©︎Gaumont

 

『ゴダールの探偵』D.tective

1985年/脚本:アラン・サルド、フィリップ・セトボン、ゴダール、アンヌ゠マリー・ミエヴィル/撮影:ブリュノ・ニュイッテン、ピエール・ノヴィオン、ルイ・ビイ
出演:ジャン゠ピエール・レオ、ジョニー・アリディ、ナタリー・バイ

探偵と刑事、ボクシング関係者、飛行士夫妻、老いたマフィアらが滞在中のホテルで交差する姿を、スター俳優を起用して描いた犯罪群像悲喜劇。『マリア』の完成資金を稼ぐためにゴダールが引き受けた企画で、カサヴェテス、イーストウッド、ウルマーに捧げられているのもそれぞれ商業的要請の中で見事な犯罪劇を撮った彼らへのオマージュと受け取れる。

THE DETECTIVE ©︎1985-STUDIOCANAL IMAGE

 

『ゴダールの決別』』Hélas pour moi

1993年/脚本:ゴダール/撮影:カロリーヌ・シャンプティエ
出演:ジェラール・ドパルデュー、ロランス・マスリア、ベルナール・ヴェルレー

ある男がスイスの小村で数年前に起こった出来事を調査する。一連の回想を通じて明らかになるのは、夫が出張中、妻のもとに夫の姿を借りた神が訪れた、という摩訶不思議な話だった。

ギリシャ神話中のゼウス神が夫に化けて人妻と時を過ごす伝説に想を得た、人間の欲望、苦悩、歓びを巡る真実を経験したいとの神の願望を巡る物語。シャンプティエの撮影と相まって、最も美しいゴダール映画の一本と評される。

ALAS FOR ME ©︎1993-STUDIOCANAL IMAGE