2月12日(日)にアップリンク吉祥寺にて行われた『シャドウプレイ【完全版】』の音楽トークショーに音楽評論家、Inter FM「World Music Cruise」DJの関谷元子さんが登壇、本作の音楽の魅力をMVとともに語る

1989年という奇しくも天安門事件が起こった年から、社会主義市場経済が押し進められ激変する中国の30年間――。中国、香港、台湾との離れがたい関係と、ある家族の姿を通して描くネオ・ノワール・サスペンス、『シャドウプレイ【完全版】』。

2月12日(日)にアップリンク吉祥寺にて行われた『シャドウプレイ【完全版】』の音楽トークショーに音楽評論家、Inter FM「World Music Cruise」DJの関谷元子さんが登壇し、本作の音楽の魅力をMVとともに語った。

 

──『シャドウプレイ【完全版】』のサウンドトラックについて

この映画のサウンドトラックを担当したのはアイスランドのヨハン・ヨハンソンとデンマークのヨナス・コルストロプです。音楽ジャンルで言いますとポストクラシカルというジャンルで、北欧の透明感を持ちながら、ドラマティックな音楽でもやりすぎない品の良さがありまして、なおかつ心理描写を音で表すのが本当に素晴らしいなと思いながらこの映画を見ました。ちなみにヨハン・ヨハンソンはロウ・イエ監督とは三作目(『二重生活』『ブラインド・マッサージ』『シャドウプレイ【完全版】』)ですけども、『シャドウプレイ【完全版】』が終わってから亡くなってしまいました。ロウ・イエ監督もとても残念がっていると思います。この映画ではロウ・イエ監督と組んだ『ブラインド・マッサージ』のエンドテーマが使われています。

──『風中有朵雨做的雲』モン・ティエン・ウェイ(孟庭苇)~解説

このモン・ティエン・ウェイは台湾の高雄出身の歌手です。この曲は1993年の大ヒット曲になります。彼女は90年にデビュー、91年の『ほらお月様をみて』というアルバムがアジアで1,000万枚以上を売ったと言われています。「お月様」がついているので、それ以降彼女には「月のプリンセス」というニックネームがつきました。彼女は雨とか月とか雲とかそういう自然の名前がついた曲がすごく多いんです。このすごく綺麗な声が絶対に人間が抗えない自然というもの感じさせて、とてもうまく歌っていると思います。今、彼女は50代になっていますけども、今でも台湾でとてもアクティブに活動しています。新曲がそろそろアップされるという情報もありまして、その曲には「太陽」という名前がついているそうです。台湾は戒厳令が解除されて民主化して、ロックとか原住民の人達の言葉の音楽とか、そういう面白い新しい音楽がどんどん出てきました。そういう中でも、こういう非常に抒情的なメロディをもった音楽というのはずっと人気がありました。そしてこういう音楽が中国でもとても人気になったんです。

──『夜』ジャン・シン(姜昕)~解説

(劇中の)仮面パーティで実際にこの曲を歌っている人がジャン・シンです。ジャン・シンはロックシンガーと言われていますが、もともと山東省の青島(チンタオ)のとても裕福なお医者さんの家庭に生まれました。子供の頃家族で北京に移り住んで、北京の大学で経済学を学んで、いいお嬢さんとして育ちましたが、ディスコのオープニングパーティのチケットをもらって、そこに当時ものすごく盛り上がっていた北京の有名なロックアーティストたちが集まっていて、その中の一人、ドウ・ウェイと恋仲になります。そこで彼女の人生は音楽にシフトしていきます。みなさんフェイ・ウォンという中華圏を代表する女性シンガーをご存じかと思いますけど、このフェイ・ウォンとドウ・ウェイが付き合うことになって、結果的にジャン・シンが去っていくことになります。『夜』という曲は2001年の『五月』というアルバムに入っている曲ですが、まあそのドウ・ウェイと別れたのが95年ということで、下世話な話になってしまいますが(笑)、曲もまさにドウ・ウェイ、で声もちょっとフェイ・ウォンに似ているということで、わたしもちょっと心配しながら(笑)この曲を聴いていたという思い出があります。

──『天辺的駱駝』フスレン(呼斯楞)~解説

これは2016年の曲です。そしてこの曲を歌っているのはフスレンという中国の内モンゴル出身の男性シンガーです。この人、調べたら2009年には建国60周年のお祝い会とか、オバマ大統領が訪中したときに人民大会堂で歌ったりしているそうなので、本当に国を代表するシンガーと言えます。この曲は中国でとてもヒットした曲だそうです。たしかにYOUTUBEを見るとこの曲がたくさんカバーされているのがよくわかります。中国は昔から、ポップシンガーだけどこういう民族的な曲を歌うシンガーが本当に多くて、日本でも一時期話題になったアランという女性シンガーもチベット族だったりします。

──『一場遊戯一場夢』ワン・ジエ(王傑)~解説

このミュージックビデオに出ている女性はマギー・チャンです。隣の男性がワン・ジエです。マギーは香港が生んだ世界的な女優で、これがミュージックビデオの最初の出演というふうに聞いています。このワン・ジエってちょっと顔が暗いというか、すごく苦労したのかなという感じがします。台湾で生まれました。両親が俳優だったので小さいときに香港に移って、その後両親が離婚したんですけど、全然彼の面倒を見なかったので、本当に苦労して香港で育ちました。そして17歳で台湾に戻って、19歳で結婚して子供ができるんですが、また奥さんがいなって、ということで非常に苦労しました。そんな中で音楽で自分を表現するということを覚えて、プロデューサーに出会って、レコードデビューします。この曲、87年です。台湾で40万枚、アジアで1,800万枚を売り上げた『ワン・ドリーム』というアルバムの1曲目に入っている曲です。字幕をお作りになった樋口さん(樋口裕子氏:シャドウプレイ【完全版】日本語字幕)が教えてくださったんですけども、この曲がリリースされたときはロウ・イエ監督がちょうど大学生のとき、青春真っ只中のときで、本当にこの曲が大好きだったそうです。改革開放から市場経済になって、中国に海外の音楽が一挙に入ってくる中で、多感なロウ・イエ監督はこの曲にとてもとても心を奪われたんだろうなと。今聴いても本当に心にしみる曲だと思います。日本のポップスにすごく力があって、アジア中が日本のポップスに追いつけ追い越せみたいなときに、ちょっと、確証はないですけど、「台湾の尾崎豊」に、したかったと言ったらいやらしいですけど(笑)、そういう気持ちで見ていました。ちょうど時期的に合うんです。ちなみにこの曲ですけど、今年、ワン・ジエがリメイクして新しいアルバムに入れて出しました。曲名の最後に「結束篇」と書いてあって、最後のバージョンといったところでしょうか。YOUTUBEでも見られますので、還暦を迎えたワン・ジエの姿を見てみてはいかがでしょうか。

 

予告編



公式サイト DICE+紹介記事リンク

1月20日(金) アップリンク吉祥寺アップリンク京都、新宿K'sシネマ、池袋シネマ・ロサ、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開中

監督:ロウ・イエ
脚本:メイ・フォン、チウ・ユージエ、マー・インリー
撮影:ジェイク・ポロック
録音:フー・カン
オリジナル音楽:ヨハン・ヨハンソン、ヨナス・コルストロプ
編集:ジュー・リン 美術:ジョン・チョン
衣装:マイ・リンリン ヘアメイク:ジョー・イエン
ライン・プロデューサー:シュー・ラー
プロデューサー:ナイ・アン、ロウ・イエ、イー・ジア
エグゼクティブ・プロデューサー:チャン・ジアルー、ロウ・イエ
出演:ジン・ボーラン、ソン・ジア、チン・ハオ、マー・スーチュン、チャン・ソンウェン、ミシェル・チェン、エディソン・チャン

2019年/中国/129分/北京語・広東語・台湾語/DCP/1.85:1/原題:風中有朶雨做的雲

日本語字幕:樋口裕子
配給・宣伝:アップリンク

©DREAM FACTORY, Travis Wei